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Make me
『みなさ~ん、からいま~!』
まるで鈴のような透き通った声。誰もが目を止めるであろうアバター。
ボクはそんな彼女に惹かれていた。
彼女の名は華楽草 すおう。チャンネル登録者数は優に100万を超えており、先日150万人達成配信をしていた。
大手Vtuber、StLeave所属で彼女はStLeave3期生。またの名を屋敷組。
華楽草はメイド。
同期の神瀬 リンは毒舌お嬢様で、鑑瑞 ソウは策士。
その上門矩 やまとは絶世の美男子かつ剣士。
これらから4人まとめて3期生もとい屋敷組と呼ぶ。
この屋敷組の中でも群を抜いて華楽草が人気。
人気たるや3Dライブが決定し、チケットが発売となったその数分だけでチケット予約サイトは落ち、異例の立ち見客を承認することとなった。
それほど人気がある。
そんな彼女が、俺にとっての推しだ。
「んっ……今日も朝来ちゃった」
憂鬱な気分で意識を呼び起こす。
今日は木曜日。昨日は華楽草の夜配信があったため寝不足気味である。
友達からは『推すのはいいが体壊すなよ』と度々くぎを刺される。
ちゃちゃっと朝ごはんを食べる。朝5時くらいから起きて朝ごはんを作る人ってすごいと思う。
ボクなんて7時起きだからね?
なぜか終わらせ切ってなかった課題を済ませて家を出る。
ボクは今一人暮らしだ。父と母はいない。無論、事故とか病気とかでもうこの世にいない……というわけではなく。
ついこの前突然、
『明日から数年間パパと海外旅行行ってくるわね!』
と言って本当に海外に行ってしまった。違う国にに訪問するたびに手紙を送ってくるため安否確認は楽なものだ。
一人暮らしするボクにも安心できる。
……最近は一通くらい返信しろ、と送られてきて震えているが。
「よっ、いつになく死にかけな表情だな」
「仕方ないでしょ……今日は徹夜したんだからさ」
「徹夜しなけりゃいいのに」
「るっせ、正論叩き込むな」
後ろから気さくに話しかけてくるこの女はボクの唯一といってもかドンではない友達である風下 弦深。いつもボクを揶揄ってくる悪友だ。
「どうせ配信追ってたんだろ?何してんだか」
「推しの配信はずっと見る。面白いし可愛いから飽きない。どこに見ない要素があります?」
「ワタシは気分」
「そうだったわ、弦深気分屋だったわ」
気分屋であるせいでボクがいつも散々迷惑被っていることは仕方ないから言わないでおこう。
……別に、行った後の仕返しが怖いとか。そんな理由では決してない。もう一度言おう。決してないのである。
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