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1 ~First contact~
拝啓、我が両親へ。
ボクは今、何故か推しの所属する会社の前に立っています──
遡ること数日。
帰宅後メールフォルダを開いたとき、1通のメールが届いていた。
内容はともかく、大まかなメールの内容は想像できた。
一次試験の合否。その内容だろうとは。
推しと直接対面するため、まずはどこかのVtuberの事務所に所属しないとまず話にならない。
一応個人勢と企業勢のコラボというのはできなくもないが、いかんせん個人でVtuberをするには、とてつもない程のお金が必要になる。
配信機材とかアバターの作成代とか、機材の補助剤的なのとか。
とにかくお金がかかるからまだ高2のボクには現実的じゃあない。
となると、どこかに所属して活動する方がまだ現実的なのである。
思い立った吉日。ボクはとにかくいろんな事務所ないし会社に応募した。数うちゃ当たる戦法でしかない。
無論、現実は甘くなくすべてかすりもせず不合格。
そのとき何か吹っ切れて謎の動画を撮って玉砕覚悟でStLeaveに応募してみた。
そしてその日、StLeaveからメールが届いていた。先のメールだ。
どうせ不合格だろうな、と思いつつ軽い気持ちでメールを開く。するとそこには──
──StLeave8期生の一次審査に合格したという旨のことが書いてあった。
ボクはその時瞬時にメールを閉じた。その後お風呂に入りタバスコを一本をがぶ飲みして喉を傷め、その感覚で夢じゃないことを確認して再度開く。
そこには何度見ても変わらず合格通知が残っていた。
ここでボクは声を上げた。近所迷惑だとか知ったことあるか。こちとら嬉しい超えて超絶ハッピーなんだ。
──ということがあり、今現在二次試験として今事務所の前にいる。
ボクの家が事務所から数駅離れた程度でよかったな、と思う。そこは一切考えていなかったからもし他県とかだったらボクはどうしていただろうか。
とりあえずボクは事務所内に足を踏み入れた。
「あの、面接に来たのですけど」
「あー、はい!メールはありますかね?」
「えっと、これですか?」
ボクはスクショを見せる。事務員の方はボクの携帯を取ってパソコンとにらめっこ。
1分弱してスマホは返された。
「その曲がり角を左に行って、そのまま進んで”1-A-3”と書かれているところです!」
「わ、かりました!ありがとうございます!」
深々と礼をしてボクは足早に面接会場へと進む。
この緊張の呪縛から解き放たれたいという気持ちもあるが、一番はボクの中に秘めた内なる想いを早くぶちまけたい。
そんな思いを抱えながらボクは”1-A-3”と書いてある表札を掲げた部屋に入る。
そこには面接官と思しき数名の大人と、対極に一つの椅子。
どうやら、二次面接はワンオンワンでやるらしい。
「沙月 礼さんですか?」
「あ、はい!」
右端の人に名前を問われ咄嗟に返事をする。緊張のせいで少々足がすくんでしまう。
いや、どこも緊張する必要などない。
ボクは玉砕覚悟でここに来たんだ。不合格だったら悲しいけどまたチャレンジしたらいい。
「単刀直入に伺います。StLeaveに入ろうと思った理由は何ですか?」
「推しと対等な立場でコラボするためです」
「え。……はい、続けてください」
「ボクはここで二次試験を突破しないと一般人です。一般人がVtuberとコラボだなんてできるわけがない。
ならVtuberとして活動できたら、お話ができるんじゃないか。そう思ったんです。
……ボクにとって、推すというのはそういうことなので」
全て言い切った。己が抱えた想いというのを全て吐き出してやった。これに不快感を覚えられたとしても、それでいい。
運営とボクが合わなかっただけ。ただそれだけの話だ。
「わかりました。あと、補足……とか、言いたいことはありますか?」
「えっとですね、絵師さんを選べるならこの人がいいんですけど」
「えっと……あぁ、この方ですね。わかりました。合否を決定したのち依頼させていただきます」
「ありがとうございます!」
深々とお辞儀をしてボクはそそくさと面接会場を立ち去った。
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