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「ひ、ひーーっ!!」
尻もちを付いた。でも逃げなきゃ。慌ててグラウンドに背を向け四つん這いで進んだ。しかし僕の行く手を遮るように銀色の足が現れた。顔を上げた。そこにはオカルト雑誌でよく見る昆虫みたいに大きい目の宇宙人、グレイがいた。
「誰か、誰か助けて……!」
叫んだつもりなのに声がかすれて空気しか出ない。逃げなきゃ、逃げなきゃ!
(シド……)
ふと、頭の中に僕の名前が響いた。優しくて懐かしい声だ。
(大きくなったわね、シド)
周りを見回した。誰もいない。いるのは目の前のグレイだけだ。
(覚えてない? 良く見てちょうだい)
僕は恐る恐るグレイを見た。大きな目がこちらを見ている。釣り上がったその目から涙がポロリとこぼれた。それと同時に僕の目からも信じられないくらいの涙が溢れ出していた。
「お母さん……」
(覚えてくれていたのね。嬉しいわ)
グレイ、いやお母さんは僕を抱き締め優しく髪を撫でた。僕はお母さんにしがみつき「お母さん」を連呼した。
何故なのか分からないが、そのグレイがお母さんだという事ははっきりと分かった。肌触り、ぬくもり、僕を抱く力加減。全て覚えている。
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