◆第1章 同居人はラジオパーソナリティー

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 白石の背中を見送り、完全に見えなくなったところで大介は隣の塩崎に声をかける。 「すみません。梶田さんが聞いたら出ろって言うと思ったので」 「よくわかってんじゃん」  再び二人は歩き出した。塩崎はこの手の話に喜んで引き受けるタイプじゃないから、さて、どうしたものか。  そのまま二人は無言のままフロアのエレベーターで駐車場のある地下に向かう。いつも日曜日の放送が終わると大介の車で一緒に帰るのが通例だ。エレベーターを降りると、すぐ近くに停めてある大介の愛車、白いレクサスに二人で乗り込む。塩崎は軽く頭を下げながら助手席に乗り込む。レクサスの車高はそれなりに高い方だが、183センチの塩崎には少々狭いようだ。 「で、引き受けたくない理由は? 悪い話じゃないと思うけど」  車が走り出したところで、もう一度聞く。 「僕は、そういう表舞台に出るのは向いてないと思ってるんです。あの夏まつりイベントは出たいと思っている人もたくさんいて、こんな気持ちの僕が出るのは失礼だと思いますし」  思った通り、謙虚な性格が災いした理由だ。 「けど白石課長が毎年おまえに声かけてるって言ってたじゃん。それは勢いとか、そんなんじゃないってことだぞ。需要があるからってことだ。それはわかるよな?」 「はい」 「それにお前、もともと俳優志望だったよな。劇団の裏方手伝ったりしてたらしいが、目標が俳優なら表に出るチャンスは掴んだほうがいいと思うけどな」 「……」  助手席の塩崎が沈黙したのは自分が核心を突いてしまったからなのだろうと予想がつく。  自分たちは一緒に住んではいるが、基本お互いの仕事やプライベートについては干渉していない。とはいえ、塩崎自身に夢があるなら、人生の先輩として背中を押してやりたいからこそ、こうして苦言を呈すこともあるわけなのだが。 「悪かった。そんなこと俺に言われたくないよな」 「いえ」 「需要があるなら受けてみればって俺は思った。何かあってもこの局内のことなら俺とか市川がおまえを守ってやれる。どっちみち夏まつりは番組スタッフも手伝うことになるから、無関係じゃないしな。もし何か、引っかかってることや不安に思うことがあるなら聞くし、どうしても気が乗らなくて断るのに困ってるなら、俺から言ってやってもいい」 「はい、ありがとうございます」  社交辞令の感謝の言葉が返ってきて、ああ、やっちまったかなと反省する。これはいわゆる、お節介なのかもしれない。相手が求めてないのに、耳が痛い話をわざわざすることもないのに、つい、言ってしまうのは年のせいか。  自分たちが恋人や家族ならば、こういう話をする機会があるだろうが、塩崎とはそういう関係じゃない。お互いの核心に触れず、日々穏やかに過ごしていけるなら、その方がいい。
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