◆第1章 同居人はラジオパーソナリティー

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「あ、そういえば、俺、週末は出張だから土曜日は帰ってこないから」 「はい、わかりました」 「それにしても腹減ったな。帰ったら、少し飲みながら何かつまむか」 「もうすぐ健康診断ですよね。大丈夫ですか?」 「アキちゃんー、今夜は大目に見てよ」  大介の猫撫で声に、くすくすと笑う塩崎に安堵する。こっちが話題を変えようとしたことにもきっと気づいていて、それとなく同調してくれる。こうやって空気が読めるところも、一緒にいて心地いい理由なんだと思う。 「ただいまー」 「おかえりなさい」  玄関の扉を開けてすぐの大介の言葉に、一緒に帰ってきた塩崎が答えてくれる。ただいまって帰ってきて、おかえりって言ってもらえるのっていいな、と塩崎と一緒に住むことになった初日に言ってから、今に至るまで、一緒に帰ってきたとしても、塩崎は必ず大介におかえり、と言ってくれる。  ラジオ局から車で15分程度の場所にあるマンションは、元々別れた妻と地元である名古屋で一緒に住むために用意した場所だった。しかし、妻は最後の最後でやはり東京に残りたいと言った。結果、自分と地元で暮らす未来より、都会で一人生きていくことを選んだ妻の選択が間違っているとは思わない。その時は寂しくも思ったが、自分を否定されての別れじゃないことが救いだった。  もともと大介が地元に帰りたかった理由は、残された両親の介護のためと考えていたが、その両親も大介が戻ってきて、すぐに母親が病気で亡くなり、そしてその翌年に後を追うように父親が他界した。  急に訪れた孤独の絶頂の時に、一緒に住むことになった塩崎に家族に近い思いを抱くのは必然だったように思う。  こうして、ただいまといえばおかえりと言ってもらえるこの環境は、できればずっと守りたい。だから塩崎とは溝を作りたくない。いつか塩崎がここよりも居心地のいい場所を見つけてしまう、その日までは。
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