◆最終章 声が届く距離で

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「だめですよ、これは僕の楽しみなんですから」  優しい声音でゆるく叱られると耳が震えそうになる。この声が、好き過ぎるのがいけない。 「ここに僕が入るんですよ。ゆっくりゆっくり広げてあげますね」 「ひぁ……っ」  冷たいジェルの感触がして、さらに指が増やされるが痛みはまったく感じない。それよりも塩崎の指がせわしなく中を動いて、そのたびに大介は身をよじらせて悶えてしまう。いやらしい声を出していることも、年甲斐もなく感じていることも、どれをとっても恥ずかしいのに目の前のこいつだけは嬉しそうに見下ろしている。 「そんなに気持ちいい? ここでイってみます?」 「や……ぅ、さっきイッたし……っ」 「全然違いますから安心してください」 「ちょ……っ、あっ……待っ」  さっきイッたばかりなのに、体が震え、本当に射精とは違った達し方をする。頭がチカチカして激しく息切れしている。自分の思い通りにならないのに塩崎の手にかかれば、どれだけでも快楽に堕とされるのだと実感した。 「こんなもんじゃないですよ、僕がどれだけ我慢したと思ってるんです」 「我慢なんて……頼んでない」 「そうやってまた煽って」 「早く、くれって」  大介が塩崎に向かって両手を伸ばす。 「ここでやめてもいいんですよ、気持ちよかったでしょう?」 「ばーか、お前のが欲しいって言ってんだろ」 「あなたって人は」  近づいた塩崎の体を引き寄せ、唇を重ねる。精液で汚れた口でキスをすることを躊躇しているんだとわかったから、あえてしてやった。俺だけを汚さないようにするなよ。 「もうぐずぐずだろ、入れろって」 「ゴムつけますから、待って」 「初めて挿れるのにゴムとか、他人行儀だな」 「ああ、もう……もっと優しくしたかった、のに」  足首を捕まれたと思ったら、大きく開かれる。そのまま硬くて熱いその切っ先を当てられ、ぐっと腰を押し込まれる。まるで楔だ。 「ああ…っ、あ、ああっ」 「中、キッツ……、力、抜いて」 「やってる……っ、でかいんだよ、おまえは」 「すみません」 「ばか、引くな。抜くな。お前と繋がってたいんだから」  徐々に押され、時折腰を揺らしては引き、少しずつ侵入してくる。息を吐いて、力を抜いて、この欲望の楔を早く体内に収めてしまいたい。 「やっとひとつに……なれたんですね」 「ああ、そうだよ」  大介の体に覆いかぶさるようになって二人はぎゅっと抱き合う。慣れてきたのか、塩崎はゆっくり腰を動かし始める。 「わ、引くとき……っ、好き…」 「こうですね?」 「んっ、あ……っ、気持ちい……っ」  ぱちっ、ぱちっと肌がぶつかる音が部屋に響いて恥ずかしい。でも恥ずかしさなんてどうでもよくなってしまいそうなくらいに気持ちがいい。
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