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「本当にすみません」
「……」
「反省してます」
「アキちゃん、俺、花の三十五歳。もうおじさんなのよ」
「それは存じております」
塩崎の腕の中で大介は、ぶつぶつ文句を言っていた。確かに煽ったのは間違いないけれど、いくらなんでも6回はおかしい。腰が死ぬ。
「なんか挟まってる。絶対に」
「もう挟まってないのですが、僕のかたちになってくれると嬉しいです」
「調子に乗るな」
「すみません」
なんて、もちろん本気で怒ってるわけじゃない。今だってこうして塩崎に包まれながら同じ布団にいるのだって最高に幸せなんだし。
「でもこれで俺とあいつは対等だな」
「比べるまでもないですが、僕が抱きたいのはあなただけなので」
「あまりにも俺が優位過ぎるから、おまえあいつの映画に出てやれよ」
「え?」
「かわいそうだろ」
「その話、まだ残ってたんですね」
「俺がやってみろよって言ったことで失敗したことあるか?」
「ないですね」
「だろ?」
機嫌を良くした大介を塩崎はぎゅっと抱きしめる。
「もしそういう機会が本当にあったら、受けてみようと思ってました」
「そっか」
「褒めてくれる人がいるんで」
「おう」
背中を押す必要はなくなったようだが、今度は褒めてやるという仕事が増えたようだ。いや、上等だけど。
「なあ、俺のためだけにミッドナイトの冒頭やって」
「ええー。今ですか?」
「頼むよ」
『今夜も始まりました、ウィークエンドミッドナイトの時間です。こんばんは。日曜パーソナリティのアキこと塩崎彰久です』
「わ、いい声」
『今夜は梶田大介さんのためだけにお送りします』
「最高」
二人で体を寄せ合って、ふざけあう。二人だけの幸せなひととき。これからもずっとそばにいて。声が届く距離に――。
To be continue...
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