付喪神達と浮気相手と相棒の200回記念「これからもよろしく」

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<第一幕> ・年末になると古い家財道具に、来年もよろしくと声をかける老婆。道具に宿った付喪神達は感謝を伝えようと、一計を案じて?  天井から下がっているハエ取り紙が言った。 「年末になると古い家財道具に、来年もよろしくと声をかける老婆……というのは、ここの婆様だ」  カラオケマイクが続く。 「道具に宿った付喪神達は感謝を伝えようと……ってのが、つまり、なんだ」  話が続かないので百円ライターが代わりに言った。 「それが俺たちだな」  桐の箪笥が重々しく頷いた。 「一計を案じて? とあるが、さて、どうするか」  破れた団扇(うちわ)が尋ねた。 「お前、今どこで頷いたんだ」  壊れたトランペットとクラリネットが調子の外れた音を鳴らし、話が脱線しないよう注意した。穴の開いた風呂敷が意見を述べた。 「言葉で感謝するだけでは、足りないよなあ。そう思わない?」  底の抜けた長靴も意見を言う。 「物は有り余っているから、プレゼントは考えものだよ」  マッサージチェアが言った。 「200回記念ってことで、肩たたき200回はどうかしら?」  自転車の古いチューブが発言した。 「それも良いけど、でも、やっぱり気持ちのこもった贈り物が良いよ」  柱時計が小さく「ボン」と音を鳴らして同意する。ブラウン管のパソコンモニターが画面に緑色の文字を表示した。 「婆様に楽しい思い出をプレゼントしたらどうだろう?」  皆が同意の印にワチャワチャ音を立てた。取っ手の取れた鍋が提案した。 「年末だから、旦那さんと温泉旅行とかは?」  覗いても何も見えない万華鏡が言う。 「息子さんや娘さんのご家族と一緒にハワイ旅行なんか、どう?」  廃棄されたジェット旅客機が言った。 「温泉もハワイも遅すぎて、もう時間的に無理だって」  故障しがちなタイムマシンは小声で「時間なら巻き戻せるよ」と皆に告げた。畳めなくなった折り畳み傘がパッと開いた。 「そうだ! 若い頃に戻してやればいいんじゃね!」  羽のない扇風機が首を振った。 「この時間旅行機は、すぐに壊れる。そうなると乗っている人間は異次元の彼方に飛ばされる。危なっかしいからよしといた方がいいや」  睡眠学習機が「美しい過去の思い出を夢に見せるって、どう?」と隣の安眠枕に言ったのを聞いて、その隣にいた不完全燃焼しかしない石油ストーブが呟いた。 「良い夢を見せてやろうよ」  カビの生えたサンダルが疑問を口にした。 「でもさ、どういう夢を見せれば喜ぶのかな?」  殺人衝動を抑えられない自動人形(オートマタ)が言った。 「自分がタイムマシンに乗って、過去の様子を見て来るヨ」 「君で大丈夫かな?」  改造拳銃が疑念を述べたところ、自動人形(オートマタ)は不快の色を見せた。その場の空気が悪くなったことを察し、空気清浄機が稼働を始める。 「僕たちが録画してくるよ」  八ミリフィルムの撮影カメラその他、映像スタッフが提案すると録音機材や照明も過去へ行きたがった。 「そうだな、再現ドラマでも作って、夢で見せるか」  人工知能が話をまとめた。そして撮影チームがタイムマシンで過去へ向かった。  かくして物語の舞台は、老婆の若かりし頃へ移る。 <第二幕> ・結婚10年目。「これからもよろしく」と笑いあった次の日、夫の浮気が発覚して……。  彼女のショックは大きかった。その日のうちに家を出て、二度と戻らなかった。  過去へ向かった撮影チームは彼女に同情した。再現ドラマにして見せるには重すぎる。  撮影チームは元の時代に戻り他の付喪神達に事情を説明した。  修正ペンが言った。 「もっと前の時代に戻って、浮気をしないように過去を変えてみたらいいと思う」  夫の浮気がなかったら、老婆は悲しい思いをしなくて済んだだろう、というのである。隠しカメラと盗聴器が声を揃えて言った。 「夫に浮気の証拠を突き付けて、早く別れさせるという方法でいこう」  しかし「浮気者の夫と別れた方がよほど幸せというものだ」との意見もあり、付喪神達の考えはまとまらなかった。  皆が疲れてきた頃を見計らって、核ミサイルが言った。 「あたしの抑止力で、浮気心を止めてみようと思うんだけど」  蒸気機関車が言った。 「それは相手次第だろうよ。浮気相手の方が嫁より好きってんなら、何をやっても無駄ってもんさ」  壊れかけのラジオが言う。 「どんな相手なのか知るために、会話を受信してみるよ」  チューナーが自動的に回り始めた。 <第三幕> ・大きな仕事を終え「またよろしくな、相棒」と笑うあいつ。けど俺はもう、詐欺の片棒なんて担ぎたくないんだ――。  上記の内容が含まれる浮気相手と夫との会話を紙に打ち終えたタイプライターが感想を述べた。 「ラジオの会話をそのまま写したんだけど、どっちが夫で、どっちが浮気相手なの?」  ブラジャーが言った。 「どちらも男の声なんだけど、この二人って、そういう関係の人なの?」  ブラジャーの中のパットが言った。 「違うだろ。そもそもさあ、この会話、浮気相手との会話じゃないって」  ガス炊飯器が言った。 「詐欺師と、その相棒の会話にしか聞こえなかった」  孫の手がラジオをチューナーを回す。 「ちょ、ちょっと待って。今さァ、この二人の心の声に合わせてみっから」  二人の男の心の声を聞き、付喪神達は状況を理解した。  大きな仕事を終え「またよろしくな、相棒」と笑っているのが、老婆の別れた夫だった。  隠れてコソコソやっている前夫を、若き日の老婆は浮気していると誤解したのだ。  もしかしたら結婚詐欺かもしれないので、その場合は浮気していたのは事実という考えもありえるだろう。  詐欺の片棒なんて担ぎたくないんだ――と言っているのは、詐欺師の夫と別れた若き日の老婆が再婚した男で、今の亭主だった。  今の亭主は相棒の妻を密かに愛していて、彼女が相棒と別れたことを大層喜んだ。そして悪事から足を洗うと同時に彼女と交際するようになり、やがて求婚に成功。結婚した二人は、共に白髪が生えるようになった今も、仲良く暮らしている。  付喪神達は老婆と亭主の事情を理解した。それから、老婆に感謝を伝えるためにどうしたら良いか、再検討を始めた。
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