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信長は着物をはだけさせ、その身体から湯気を放ちながら汗を拭っていた。
夜が明ける前に城を出て、馬が息を上げるまで走る。
しかし、信長の愛馬、黒獅毛は良く走った。
信長と根競べをするかの様に野山を駆けていた。
そして信長はいつもこの寺に寄り、濡れた手拭いで熱を持った身体を拭くのだった。
「三郎…。精が出るの…」
本堂から小柄な住職が出てくると、音も立てずに信長の横に座る。
信長はその住職をちらと見て、首筋の汗を拭った。
「誰よりも早く走らんと天下は取れんよってな…」
信長は汗の染みた手拭いを脇に置いて、膝に手を突いた。
「天下とな…。そりゃ大きく出たわい。わしの知っている三郎が天下を取ろうとしとるとはな…」
住職は声に出して笑った。
「まあ、しかし、不思議とお前の言う事は信じてしまうの。本当にいつか天下を取りそうな気がして来たわい」
信長は住職を見ると歯を見せて笑った。
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