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白川に恋の予感?
「あのー、またデレデレしてるんですが。俺の前でにやけないで下さい。気持ち悪いんで」
「う、うるせえ。お前だってちゃんとした恋人が出来ればそうなる」
鷹城は慌てて咳払いをし、白川を見た。
「あー……俺は無理ですよ。ひとりに縛られるの嫌いなんで」
白川が曖昧に笑う。
「ふん。そういう男ほどいざ本命が出来るとぞっこんになるんだよ」
確信を持って言える。自分も同じだからだ。
「うーん、そうですかねえ……」
「俺は待ってるよ。お前を変えてくれる人が現れるのを。もういい年だろ、そろそろ身を固めろや」
「そう言われましても」
「いい人いないのか? 会社とか、取引先に」
「まあ、いると言えばいるし、いないと言えばいない……かな」
「なんだよ。ちゃんといるんじゃねえか。どんな相手だ? 男? 女?」
鷹城はやや色めきだった。
「男です。ライバル会社ですが」
「つーことは編集者か。なんだよ。どこだ?」
「文芸かもめ」
白川が言った。
「かもめかぁー……超でかいとこじゃん」
文芸かもめとはエンタメ系の大手出版社だ。
「一体どんな奴なんだよ。年上? 年下?」
と鷹城。
「どんな、って……普通ですよ。年上で、仕事出来そうで、礼儀正しくて、ちょっと近寄りがたいくらい綺麗な人で、」
照れているのか、白川の声がだんだん小さくなる。
「ああ、おまえ高嶺の花好きだもんな! 昔から本気になるのはクールな美人系だったもんなあ。ははは、好みは全然変わってない」
鷹城が笑った。
「止めて下さいよっ。別に好きとかそんなんじゃありませんから。ただちょっと気になるだけで、」
顔を真っ赤にした白川が言った。
「でも手は出してねえんだろ?」
「……はい」
白川がうつむいて、つぶやいた。
「じゃあ本気なんじゃねえか。お前みたいなタイプが気軽に口説けない時点で、もう惚れてるよ」
「違いますって……」
「よし。俺に任せとけ。クリスマスの時のお礼だ。取り持ってやるよ」
鷹城がにやりと口の端を引き上げた。
「い、いいですから! 余計なことしないで下さいっ」
ガバッと白川が顔を上げ、手のひらで鷹城を制した。
「いいってことよ、気にすんな。お前にいい人が出来たら俺も嬉しいし」
内心ダブルデートでもしたら真琴が喜ぶだろうか、と思いながら、鷹城は腕時計を見る。
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