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お買い物
◇
バスを降り、最寄りのスーパーで買い物をする。その後、近くのたい焼き屋で、あんことカスタードとずんだあんを二個ずつ購入した。
たい焼きは真琴の大好物だ。嬉しそうに、もそもそと口いっぱいに頬張る様はまるでハムスターで、とても愛らしい。あの小動物めいた仕草が見たくて、こうして時々買ってしまう。
会計してたい焼きを包んでもらっている間、ふと隣の店を見た。いつの間にか新しい雑貨屋が出来ている。
動物をモチーフにしたキッチングッズなど、可愛らしい商品が並ぶショーウィンドウを眺めながら、ある物を発見して、鷹城はかっと目を見開いた。
(パンダの皿!)
そこには、しょう油を入れるとパンダの絵が浮かび上がる、というユニークな小皿があった。
(アレ、絶対真琴がよろこぶ)
以前動物園でパンダのぬいぐるみを買ってあげてから、真琴はパンダが好きになったらしい。あれこれとグッズを集めている。
――可愛いのに、なんか態度が偉そうなところが先生にそっくりなんです。
と言っていたが、イマイチよく分からない。
でもまあ、真琴が楽しがっているのならいい、と思うことにしている。
鷹城はたい焼きの入った袋を受け取ると、すぐ雑貨屋に向かった。
柄違い先程のでしょう油皿を三枚選び、ついでにパンダの顔が描かれたペアの湯飲みと、同じくパンダ柄のランチョンマットを二枚カゴに入れ、レジに持って行く。
店員の若い女性が〈なにこのパンダ大好きおじさん……〉というような目で見ているが、気にしない。真琴のためなら、いらぬ誤解も喜んで引き受ける覚悟である。
すまし顔で支払いを終えて、店を出た。それから帰り道、花屋の前を通り過ぎようとして、ふと足を止める。
店先の色とりどりの花を見て、
(たまには、未来に嫁に花でも買ってみようか)
なんて照れくさいことを思う。
深紅の薔薇(ばら)にしようかと思ったが、さすがにキザすぎるので、止めた。絶対に退(ひ)かれる。
そのかわりに、オレンジのバラとかすみ草をあしらったミニブーケを作ってもらった。これなら真琴も気軽に飾ってくれるだろう。
さすがに付き合って三ヶ月で薔薇の花束は重い、という自覚はある。でも一年記念日には、夜景が綺麗なレストランを予約して、ひと抱えもある真っ赤な薔薇の花束をサプライズで贈りたいものだ。
(……うん。俺って愛が重すぎるな)
両手に買い物袋をいくつもぶら下げて歩きながら、鷹城は思う。
今まで交際した女に花を贈ろうなどと考えたことはない。なんせ、母の日だって何もしなかったくらいだ。
そんな自分が、年下の男の恋人にぞっこんになり、あれこれと企画し、喜ばせようとしている。
しかも一人でいると、こうして真琴のことばかり考えてしまうのだ。
ちょっと浮かれすぎではないか。今時、小学生だってもう少し落ち着いて交際するのでは、なんて思ってしまう。
(まあいいか。俺にとっちゃ初恋みたいなもんだし)
早く逢いてえな、と鷹城は家路を急いだ。
自宅に着き、リビングダイニングの扉を開けるとちょうど真琴がいた。
胸元にパンダのワッペンがついた帆布(はんぷ)のエプロン姿で、乾燥済みの衣類が入った洗濯カゴを持っている。
「お帰りなさい。早かったですね」
と鷹城を見て微笑んだ。
「ただいま――ってお前、動いちゃダメだろう」
鷹城は慌ててテーブルに買い物袋を置くと、すぐに洗濯カゴを奪った。
「あっ。これから畳むのに」
「いいから座ってろ。今日は全部俺がやるから」
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