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か…かわいい
と無理やりソファに座らせる。自分も真琴の隣にどさりと腰を下ろし、不器用ながらも洗濯物を畳み始めた。
「でも……」
真琴が眉をハの字にする。
「お前は休んでろ。体しんどいんだろう?」
横目で見ると、真琴はみるみる顔を真っ赤にして「……はい」と頷いた。
(――……! か……かわいい)
恥じらう様子があまりに可憐で、今すぐ抱き上げてベッドに連行し、朝まで睦み合いたくなる。しかしそんな強烈な衝動をなんとか押し込めて、恋人を気遣う紳士を気取った。
「昨日は無理させて悪かった。お前の体が心配だから、今日はゆっくりしてくれ」
鷹城は洗濯物を膝の上に置いたまま、真琴の肩をそっと抱き寄せた。
「だけど、おれ雇われ家政夫なのに……」
「そんなこと気にするな。体調が悪い時はみんな休む。そう思え」
「いいんですか……?」
「当たり前だ」
「じゃあ……今日はそうします」
「ん。よろしい。ほら、俺に寄っかかれ」
「……はい。失礼します」
真琴が甘えるように、コテンと小さな頭を鷹城の肩に乗せる。つややかな黒髪からシャボンの香りが舞い上がった。
「この匂い好き」
鷹城は言った。鼻先を寄せてクンクンと味わっていると、真琴がくしゃっと笑った。
「先生。くすぐったいです」
「ほら、少し寝ろ」
「気になって眠れませんって」
と言われたので鷹城は匂いを嗅ぐのを止め、真琴の細い指を優しく握った。
「これならどうだ?」
「ふふ、なんか落ち着かないなぁ」
「落ち着かないか?」
「……いえ。嘘です。すごく安心します」
真琴がゆっくりと吐息をついた。心身がほどけていくような暖かい呼吸が伝わってくる。
「五分だけ、こうしてていいですか?」
「五分といわず、朝まででもいいぞ」
「ふふふ……遠慮しておきます。じゃあ、少しだけ」
と、真琴は静かに目を閉じた。体温を感じていると鷹城も心が和んでくる。
目をつぶった真琴の顔は青白かった。こうやってまじまじと見るとまつげが長く、形の良い鼻をしている。もともと整った顔立ちのせいか、まるで人形みたいだ。
(ああ、本当に無理させてるんだな……。でも俺のせいで疲れてるんだと思うと、正直嬉しい)
可哀想に、しかし弱っている姿がもっと見たい、という相反する気持ちが同時に存在する。自分はややサディストらしい、と真琴と付き合ってから気がついた。
しかし彼を可愛がって――いや、いたぶってか――楽しむのはセックスする時だけだ。お互に気持ちが通じ合っているからこそ、少々のSMはスパイスになる。だが、それ以外では真琴を傷つける奴は許さない。
(お前をいじめていいのは俺だけだ)
鷹城は眠る恋人の頬に口づけをした。
それから起こさないように気をつけながら、洗濯ものをたたみ始めた。
全てたたみ終わると、真琴が寝入ったのを確認し、鷹城は華奢な体をそっとソファに横たえる。
寝室から毛布を持ってきてかけると、自分は夕飯作りに取りかかった。
といってもすべては電気圧力鍋にお願いするのである。
(いでよ、ゴローちゃん三号)
テッテレーと某ひみつ道具の曲を口ずさみながら、電気圧力鍋の蓋を開ける。
ゴローちゃん三号とは、電気圧力鍋の名前である。ちなみに、真琴がつけた。
豚バラブロックを厚めに切り、ネギとショウガ――真琴がすでに皮を剥いておいたもの――を内釜に入れる。下ごしらえはそれだけだ。
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