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どたばた夕飯作り
最後に真琴の特製万能だれと、水を入れてスイッチオン。あとは待つだけである。
(超便利。俺でも作れる)
その間お米を炊いて――これは真琴が風邪を引いた時にマスター済みだ――、買ってきたパンダのしょう油皿を軽く洗い、同じく新品のランチョンマットをテーブルに敷く。その上に各自の箸などを並べた。
花瓶のありかが分からないので、大きめのグラスに水を入れ、ミニブーケをそのまま差した。言葉の通り華が咲いて、部屋全体が明るくなったようだ。
(真琴が起きたらびっくりするだろうな)
と自身のテーブルセッティングに満足していた鷹城は、あることに気付き愕然とした。
しょう油をつけて食べるメニューがない。これではせっく買ってきたパンダのしょう油皿が効果を発揮できないではないか。
(まずい、どうする!? 今から刺身を買いに行くか?)
スーパーまで行くと日が暮れる。とりあえず鷹城は財布だけ持って近くのコンビニに駆け込んだ。
そこで笹かまぼこを発見して、すぐに買い込んだ。わさび醤油で食べれば最高である。
急いで部屋に戻って夕飯の続きをする。
最後はみそ汁だ。しかしみそ汁など作ったことが無い。ここは申し訳ないがインスタントに頼ることにする。
慣れない夕飯の支度にどたばたしながら、鷹城は、真琴を初めとする世界の主婦や主夫に尊敬の念を抱く。
ごはんを用意するだけで、なんて大変なのだろう。これからは感謝して食べなくては。
できあがった角煮を器に入れ、笹かまぼこを盛り付けた。茶碗と、インスタントの具を入れた状態の椀も並べる。
全てを用意し終え、風呂のスイッチを入れたところで真琴がようやく起き出した。
「ん……。あれ、かなり寝ちゃったみたい……。先生?」
寝起きの甘えた声にすっとんでソファに行き、跪(ひざまず)くように絨毯(じゅうたん)に座る。
「起きたか。どうだ? ちょっとは疲れ取れたか」
「ん……。かなり体が軽くなりました」
にこっと真琴が笑ったのを見て、ほっとした。弱った真琴も可愛いが、やはり元気な真琴がいい。
「良かった」
と鷹城は隣にぴったりと座ると、真琴の唇に軽くキスをする。ちゅっちゅ、と甘い音を立てながら口づけをすると、真琴がくすぐったそうに笑う。
「んもう、いきなりこれですか」
「だって」
「寂しかったですか? おれが寝てて」
「……まあな」
鷹城は頬をじわっと熱くして言った。
本音を言えば寂しかったのは真琴が眠っていた短い間だけではない。白川と打ち合わせをしていた時から本当はずーっと寂しかった。
「恋しかったよ、お前の体温が」
ぎゅっと抱きしめると、真琴もそっと背中に手を回す。そのまま再び唇を結び、互いの暖かな粘膜を味わった。
ついでに彼の腰をさらりと撫でながら、慎重にお尻をタッチする。
(ちょっと触るだけならいいよな……)
真琴のお尻は円(まる)みがあって、ふにふにしていて、直に触れると少し冷たくて、一度揉んだらやみつきになる。
けれど相手が疲れている以上、今夜はセックスはしない。だからもう少しいやらしく撫で回したいナ……と思った矢先、真琴がくんくんと鼻をひくつかせた。
「美味しそうな匂い!」
真琴はするりと鷹城の腕の中から抜けると、立ち上がってテーブルに向かった。食卓を見て、黒い瞳を輝かせる。
「わぁ、すごい! これ全部先生が作ったんですか?」
と頬を紅潮させて言った。
「おう。すげえだろ」
鷹城は行き場の無い手をさっと後ろに隠して、無理やり微笑んだ。
(ちっ……)
「このお花も?」
「綺麗だろ。近くの花屋で買ってきたんだ」
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