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愛してる
「相変わらず、変なところにこだわってますね。順調なら、どっちだっていいじゃありませんか」
「まあ……そうだけど、」
「どっちも信頼関係が大事ですよ。その点では、熟年夫婦の方が上かもしれませんね。いいところも悪いところも、お互いのことを知り尽くしてる、って感じで」
「……俺らもそうなれるかな」
と一瞬、弱気になる。しかしその不安を吹き飛ばすように、真琴が言う。
「絶対になれますよ。先生とおれなら」
と目を糸にして笑った。
その暖かい表情に、胸いっぱいの愛おしさが募る。鷹城は湯飲みを置くと、ぎゅっと真琴を抱き寄せた。
「お前……やっぱり強いな」
鷹城は聞こえるか聞こえないか位の声量で言った。
「え?」
「いや、こっちの話」
真琴が不思議そうにまばたきをする。その額にキスを落としながら鷹城は強く思う。
(愛してる)
どんな時も離さない。世界中が敵になっても味方でいる。決して裏切らない。真琴を傷つける全てから、守り抜く。
そのくらいの決意で愛していくと心に誓った。
「あのさ」
顔中のキスの合間に鷹城が囁く。
「ん……。なんですか?」
「俺、お前のこと……、……あ、愛……」
自然と胸がドキドキしてくる。愛してる、と口に出したことは一度も無い。
「え? なあに?」
「だから、お前のことを、あ……愛……愛して……」
「アイシテ?」
「あーあーあー、アイつとシテえなーってずっと思ってたの!」
鷹城は言った。
「……はあ?」
真琴が眉を寄せた。
「だっ、だから……初めてお前と会ったときから、あいつとエッチしてえな、ってずっと思ってたっていうか……。理想のケツしてんな、とか考えてて、」
(何を言っているんだ、俺は)
焦ったうえに、おかしな言い訳をして自分の株を急激に下げている。
「……最低」
真琴がジロリとにらんでくる。そう言われて、自分でも、ごもっとも、としか思えない。
「すけべ、変態、エロおやじ」
「……そんなに褒めないでくれ」
今回は褒め言葉だとは思っていないが、あまりに情けなくてそう答える。
「全く褒めていませんから。先生なんてもう知りません」
真琴がぷいと横を向いて、立ち上がる。
「おい、どこ行くんだよ」
「お風呂入ってきます!」
ぷりぷりと去って行く真琴を見ながら、鷹城は自分の馬鹿さ加減に呆れる。
(ああ……俺ってこんなにアホな男だったのか。いや、恋をするとどんな男もアホになるんだ)
と思い直しながら、すぐに愛しい背中を追いかけた。
★おわり★
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