序章

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序章

「鷹城さんの為だけに……アイドル・マコ……う、歌います……」  高級ホテルのスイートルームに、影内真琴{かげうち・まこと}の羞恥に震えた声が響く。  真琴は今、まるでステージに立つ芸能人のようにベッドの上に立っている。一方、恋人の鷹城吾郎{たかじょう・ごろう}はふかふかの絨毯で正座していた。  しかし普段と様子が違う。二人がコスプレをしているからだ。  真琴は女性アイドルの衣装をまとっていた。  女子高生が着るような、制服風の華やかなステージ衣装。派手にアレンジした紺のジャケットに、赤いチェックのミニスカートをはき、足下はロングブーツだ。白いシャツにはカラフルなネクタイまでついている。ダークブラウンの髪は綺麗にブローされ、羽根のようなヘアアクセサリーがついていた。可愛らしいメイクも施されていて、どこからどう見ても、アイドルだった。  一方鷹城は、はっぴに、はちまきというオタクスタイルである。  今、真琴は大学生兼家政夫の真琴ではなく、〈大人気アイドル・マコ〉である。  〈アイドル・マコが、ストーカーから自分を助けてくれたファンの男性に、お礼としてパフォーマンスをする〉、というなのだ。 (アイドルのコスプレなんて、恥ずかしいよう) 「マコちゃん……。まじで、いいの……? 俺のこと認知してくれた上に…す、好きになってくれたって、本当?」  鷹城の役は、〈マコにガチ恋しているアイドルオタクの会社員・ゴロー〉である。真琴とは違い、大変ノリノリだ。 「じゃ、じゃあ……ゴローさん。始めるよ……? ドキドキするなあ…」 「こらこら。アイドル様が弱気なこと言っちゃいけないよ……。きみは天才なんだよ」
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