デレデレ?!

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デレデレ?!

「は? ぞっこんってなんだよ」 「自覚ないんですか? さっきから影内君の話ばっかりしてますよ」  白川に指摘されて、さすがの鷹城もじわっと頬が熱くなった。 「そ、そうか……? 俺そんなに真琴の話ばっかりしてたか」 「はい。しかもすっごいデレデレした顔してました」 「デッ、デレデレ……?! おい、年上をからかうんじゃねえぞ」  鷹城は照れくさくなって白川をにらむ。 「凄んでも無駄ですよ。あのね、鷹城さんはイケメン枠で売ってるんですから、俺以外にはそんなだらしない顔しないで下さい。イメージが崩れる」  たしなめるような目で白川が言った。 「ふん。そんなん知るかよ」  と、そっぽを向いて冷めかけたカフェオレをすすった。 「ま、片想いが実ったのはいいことですけどね。それもまあ、俺のお陰ですが」  にやっと白川が笑った。腹黒そうな笑みである。 「……出たな、墨川(すみかわ)」 「なんですか、その呼び方」 「お前は好青年ぶってるけど腹ん中は真っ黒だから。で、白川じゃなくて、墨川なの」 「はあ」 「まあ、感謝はしてるよ。お前がクリスマスパーティーん時強引に俺と真琴を同室にしてくれたから、膠着(こうちゃく)状態にヒビが入ったわけで。そっからようやく進展したんだから」  鷹城はカップを置くと、背もたれに背を預ける。 「そうでしたね。お役に立ちましたか? 俺のもう一つのプレゼントは」  白川が言っているのは、ホテルの部屋に用意された潤滑ゼリーと避妊具のことである。 「……そこはノーコメント」  腕を組み、ジロリと鷹城は白川をにらんだ。 「ケチだなあ。教えてくれてもいいのに。前は誰とどんな風にヤったか、すぐに教えてくれたじゃないですか」  不満そうに白川が言った。 「前の俺とは違うんだよ」  と鷹城はしみじみと答え、窓の外に目をやった。 (そう。俺はもう、昔の俺とは違う)  以前まで白川と鷹城は夜の遊び仲間だった。二人で繁華街へ繰り出し、男女問わずお持ち帰りした。時には二人で同じ相手と肉体関係を持つ――いわゆる穴兄弟にもなったことがある。  そういう悪い遊びが楽しい時期が、鷹城にはかなり長い間あった。  きっかけは、高校生の時に付き合っていた女子との間に起きたトラブルである。  当時鷹城はクラスのマドンナと交際していた。子供なりに、本気で彼女のことが好きだった。  その頃から小説を書いて鷹城は、彼女をヒロインにして、ノートに物語を綴っていた。ミステリー風味の恋愛小説で、少しだがキスシーンやベッドシーンもある。その小説ノートを間違って彼女に貸してしまったのが全ての始まりだった。  彼女はそれを読んで、自分がモデルにされているのが気もち悪かったのだろう。翌日には鷹城の小説ノートはクラス中に回覧されて、「変態」のレッテルを貼られた。  ショックだった。  自分は彼女が素敵だから、と思って小説のキャラクターにしたのに、軽蔑されたのである。  それ以来鷹城はクラスで皆に無視され、浮いた存在となり、いじめを気にした担任が両親に報告した。  しかし両親の反応は冷ややかだった。息子を庇うでもなく、「そうですか」とあっさりと汚名を認めたのである。  鷹城はそんな両親の姿に、恋人に裏切られた以上の衝撃を受けた。  もともと両親は共働きで、夫婦仲が悪く、父も母も愛人を作っていた。なのでほとんど家に寄りつかず、子供達は祖父母に育てられたようなものである。
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