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うるさい。
うるさい。
うるさい。
踵を返せばのたりと足に粘着質な物が纏わりつく。舌打ちをして足元を見れば少女がボンヤリと慶太の窓をじっと見つめていた。
途端に怒りが沸騰する。
この溢れる悲しみも怒りも彼女にとっては何も影響を与えていない。こんな時にでさえ視線が絡むこともない。
少女が少しでも悲しそうにしてくれたら。
いや、せめて視線を合わせる事ができたら。
もっと自分に価値を見つけられたかもしれないのに。
白髪の男が悲しそうに栄養ドリンクを渡す映像がノイズを伴って蘇る。
そうだ……あの暴力的な優しさをくれた滝田だとて、結局は慶太を必要としていなかった。
逃げるように走り出す。
玄関に入って、扉を勢いよく締めた途端に、涙が溢れ出た。
手にあったビニール袋は何処かに行ってしまったようだ。
きっと落としてしまったのだろう。
そんな自分にさえ嫌気がさした。
『地元に帰るんだね』
大家の言葉が蘇る。
ポケットからスマホを取り出し、電話帳を開くと震えた指で「母」と一文字で書かれた番号を指でなぞった。
『慶太、がんばってね』
都会に送り出す時に見せた母の泣きそうな笑顔がチラつく。
はぁぁぁぁあ。
肺に詰まった重たい空気を吐き出す。
こんな価値のない息子を母に見せることさえ、慶太には罪に思えた。
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