濁流

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アパートの近くで主婦たちが世間話に花を咲かせていた。 「……向かいの浅井さんちのお子さん〇〇高校落ちたんですって」「ええ、あんなに優秀なのに?」「そう言えば山本さんちの娘さん、離婚したみたいよ」「ああ、最近ご実家にいるもんね」「夫の浮気ですって」「最近物騒よね」「ああなんかこの間隣の町内で泥棒入ったとか」「うちの猫可愛いの、見てみて」「茶トラ?可愛いわね」「あそこのおばあちゃん、いっつも機嫌悪くて怖いわ」「息子さん出て行ってからもうずっとよ」「うちの実家はワンコよ。ゴールデンレトリバー」「あら可愛い」「もうお年でね。介護がそろそろ必要みたい」 女性たちの濁流はとても太くて長くて聞くに耐えない。 だと言うのに部屋の中まで途切れながらも聞こえる。 静かにならないものか。ここ数日など訳の分からないものの言葉も流れてきて、煩くて敵わない。 それに対して随分と静かな彼女はいつもの所でボンヤリと畑を見ている。 日がゆっくりと落ちる頃、大家が小さな籠を持って現れた。 夕飯用のトマトと胡瓜をちぎる背中は小さい。 時々落とされた野菜を彼女が貪る。 見慣れた風景。 見慣れてしまった1日の終わりだ。 キッチンの流しにナメクジが一匹いた。 ベージュのヌメった身体が気持ち悪い。塩の瓶を取り出してその体に振りかければ、きゅうっと縮まった。 「だめだ……」 慌てて水をかけてやるとニョロリと蠢いて、思わず安堵の声が漏れる。 窓を開けて外に放り投げれば、彼女がノタノタと近づいてきた。 しゃがみこんで見つめている。 その背中は確かに随分と小さくなっていた。
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