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途端視界が切り替わった。
ザアザアと流れるノイズ音が頭に流れる。
窓から入る月明かりだけの薄闇の中、ゴチャゴチャと物が溢れた見たこともない部屋、古い畳の上に泥が付いた黒っぽいスニーカーが進んでいく。
アチコチ剥がれた襖をそっと開くと、窓が開いていて、扇風機が音を立てながら回っている。
その真ん中、布団の上に小さな背中がゆったりと上下していた。
そっと手を伸ばした瞬間、外から「近寄るなっ」と声が響いた。
更に「あっちへ行けよっ。どっか行けっ」と声が続く。
慌てた様子で振り返った瞬間棚の上のものがガシャンと音を立てて崩れた。
「あんた……っっ」
顔をあげると布団の上で恐怖に歪む老女がこちらを見ていた。
「男」は、そのまま手袋に包まれた手を老女に向けて……画像が切れた。
慶太の背中に電撃が走る。
何が何だか分からないが、すべてが繋がったような理解したような気持ちになった。
体は勝手に動いた。
窓から裸足で飛び出し、青い炎の中の少女を抱え込む。
叫びともただの怒号とも付かない、訳の分からない言葉を発しながら無我夢中で大家の家の玄関を叩きまくった。
騒ぎに気づいたのか、ふと周りの家の電気がチラチラとつくのが見える。
玄関扉を思いっきり引くと鍵が掛かってなかったらしく、ガシャンと大きな音を上げてあっさりと開いた。
と、同時に黒い影が飛び出してきたものだから、思いっきり体当たりする。
腕に抱えていた少女が衝撃でコロンと転がるのを見て慌てるが、白い手や小さな獣の手が彼女を包んだのを見て息をつく。
「その子をよろしくお願いしますっ」
誰かなんて分からなかった。でも「シカタガナイワネ」と返してきた声には聞き覚えがある。
素早くアスファルトに転がった背の高い細身の体に乗り上げる。
ここで逃がす訳にはいかない。
暴れる手を掴むとヌルリとした。黒っぽい薄いゴム手袋は赤い液体が滴っている。
「誰かっっ!大家さんをっっ!怪我してるかも!!」
向かいの扉が開く。
隣の家の窓が開く。
「警察ですか?外で騒いでいる人がいるんです」「大丈夫か?!」「なんだ」「警察、警察呼べ」声の濁流が溢れた。
青年と自分を囲むように人が集まる。
遠くから赤く点滅するライトとサイレンが響いた。
誰かが家の中から血塗れの老女を運び出してくれたようだ。
鼻血が出ているようだが、大きな怪我はないと誰かが言っているのが聞こえて大きく息をつく。
「救急車よべっ」「呼んだわよっ」「ダイジョウブ?」「んだよこれ、事件じゃん」「ミズミズミズ、ヒヲケセ」「タオル、タオルよこせ」「ネェ、バケネコドモヨンダ?」「暴れるな」「モウクルワ」「手を抑えろ」「君も大丈夫か?」
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