来客

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(なんだろ…) 目を合わせ、手が重なり、髪を撫でれば今までとは違った何かを感じた。 それは彼女の空気感だったり、表情だったり、温度だったり。 (なんで今まで分からなかったんだろう) 慶太は感じていた。 彼女の喜びを。 彼女は「宿なし童」と言う妖なのだという。 通常ニンゲンとアヤカシは別々の世界に暮らす。 その壁を超えて縁を作り、人間の世界に溶け込む妖や、妖の世界に踏み入れる人間は例外だ。 だが宿なし童は人間そのものを仮宿とし、人間の世界で生きる妖なのだという。 宿なしと言うからには宿ありもあるのかと聞けば、「後で説明するんですけど」と前置きをして「ナメクジとカタツムリくらいの差ですけどね」 と鈴音は麦茶を一口のんだ。 「どちらかと言うとヤドカリに似てるんじゃないか?姿はナメクジだけど」 滝田さんの言葉に鈴音は「まあ、そうですよね」と素直に続ける。 確かに露香と呼ばれた少女の青い血管が透けるしっとりとした白い肌や、ベージュの花模様の打ち掛け、そして何よりも歯がみっしりと整列した舌はナメクジの擬人化と言って間違いない。 「滝田さんは露香ちゃんの『仮宿』ってことですよね?」 滝田さんはにっこりと頷く。 やはりそうだ。 露香が纏わりつき始めたのは滝田の工場の前を通った時からだった。同僚の話で滝田は出張後捜し物をしていて、退職した慶太にまで電話を掛けてきたと聞いた。 「『宿』と言ってもずっと一緒って訳じゃないんですね。滝田さんがいない時に、これにつられてついて来ちゃったってことなんですか?」 滝田に貰った栄養ドリンクを指でなぞる。 「私自身というより私の『居場所』を仮宿とするからね。だから旅行のような遠出には付いてこないし、ずっと一緒でもないんだ。家と工場を行ったり来たりするくらいかな」 工場に付いてこない日も多いのだと言う。 確かに慶太と一緒の時も露香は家の周りから出ることはなかった。 「でも露香さんがあなたの所に来たのは滝田さんが出張で居なかったって言うより、『宿替え』の時期に被ったのが大きいですね」 「宿替え?」 「ええ。何年か……それこそ十数年に一度、宿なし童は『仮宿』を変えるんです。ヤドカリに似ているっていうのはこのことで…あなたが彼女の新しい『仮宿』になったんですよ」 「えっ」 「仮宿候補のニンゲンが童を家に招いたら、それはもう了承したということなんです」 ならばそこまで説明してほしかった……と恨めしげに睨むが「忠告しました」と更に睨み返されてしまった。
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