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終章
銀はにやにやと悪い顔をして塀の上を歩きながら「『宿あり』の話を結局しなかったのう」と笑った。
そう言えばそうだったと思ったが、どうでも良いことだ。
鈴音はフンと鼻を鳴らして銀の言葉を無視する。
宿なし童は仮宿暮らしを2回繰り返し、3度目に本宿を見つける。
はじめの仮宿で幼少期を過ごし、2回目の仮宿で娘時代を過ごす。最後本宿の人間と結ばれてやっと「宿あり」となるのだ。
それをあの人間に言ったところでどうだと言うのだ。
仮宿はあくまで人間だ。
宿なし童と暮らす間のみ妖を可視できるが、半妖となることもない。
人間ならば知らないほうが良いこともある。
「仮宿の悪いところも言わなかったしな」
悪いところ?
デメリットかどうかは相手次第だと鈴音は口には出さずに心の中で答えた。
「今回それの被害者は僕だけだと思うけど」
滝田をチロリと見れば、すまなそうにその白髪頭をかいた。
「まさか露香さんが『銀狼姫』の夫の連れ子なんて……」
先日より銀狼の縄張りでは姫が「娘が居なくなった」と騒いでおり、鈴音たちの耳にも届いていた。
銀狼姫の子供は3人いたが、どの子も縄張りから出た様子が無かったから訳がわからなかったのだ。
とはいえ万が一ということもあるので放っても置けず、縄張りの妖に聞いてまわっていたのだが、宿なし童の仮宿である人間が夫ということは今回初めて知った。
「あの乱暴者と名高いの銀狼姫がこんな年老いた人間にぞっこんだなんて……世も末だよ」
滝田は思わず苦笑いを零す。
彼の妻は滝田に取り憑いていた露香も娘として愛していた。
だから滝田以上に心配し、狂ったように探していたようだ。
そんな中、自分の縄張りの人間が露香の仮宿として選ばれたとなれば鈴音の心情は察するに値する。
妖の世界は面倒だ。
縄張りを越えて銀狼姫と自分の前に現れた緊張でカチコチの鈴音を思い出す。
露香の話をしていくうちにやっと打ち解けて、本来のふてぶてしい態度に戻ったのだ。
「それに別にどうでも良くない?仮宿は人間と結ばれないなんてさ」
宿なし童は身の回りを過ごしやすい様に整える。その一つとして、仮宿に人間の伴侶を持たせないのだ。
無意識に人間同士の恋愛は切ってしまう。
代わりになぜか積極的に妖との縁は結ぼうとするのだ。
曰く宿なし童は仮宿を父とし、自分を可視できる妖の女性を母としたいのではないか、と言われている。
そのため仮宿は童がいる間は人間だが、結ばれた妖との縁により、結局は半妖となるというのが通説だ。
何れにせよ滝田も慶太も妖の世界に招かれ、人間には見えなくなる日がいつかくるのだろう。
だがそれが不幸かどうかは本人次第だ。
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