少年と猫

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「こちらへ」 辿り着いたのはアンティークな雰囲気の喫茶店だった。 商店街にこんな場所あっただろうか。 頭を傾げつつ、中に入れば柔らかなコーヒーの薫りが漂っている。 「いらっしゃいませ」 カウンターの奥からモジャモジャ頭の青年が見えた。黒いカフェエプロンをつけているので、店員らしい。 常連なのか少年はちょっと頭を下げると、青年は奥の席を指差しただけで水を用意し始める。 「ハチ、紅茶と煎茶と……コーヒーで良いですか?」 おずおずと首を縦にふると、ハチと呼んだ店員に「お願いします」とだけ言って、奥のソファ席に腰をおろした。 向かいの席に半ば強引に座らされる。 「あの……」 「単刀直入で申し訳ないのですが、あの子を部屋の中に入れてませんか?」 「え……」 すぐに慶太の頭にあの着物の少女が浮かぶ。 慶太の表情で悟ったのかコクンと頷いてみせた。 「あなたの思い浮かんだソレですよ。部屋に入れていませんよね?」 「はぁ……」 実際部屋に入れるも何も少女はいつも窓にへばりつくだけで扉から入ってこようとはしない。 外に出れば付き纏うが、それも家の周りのみだ。 「なら良かった。絶対に入れないでください。特別悪さもしないので、放っておいて。暫くすれば自然といなくなります」 「そうなんですか?なんか盛り塩とかしたほうが良いかな……とか」 部屋の窓際に置いた袋のままの焼き塩を思い出していた。浅い知識だが、悪いものを寄せ付けない効果があったはずだ。 勿体ないと袋を開けることは躊躇っていたが、諦めて皿にでも盛っておこうかと最近では思い始めていたところだった。 「だめじゃ」 今まで黙っていた大男のほうが鋭く言い放つ。 反っくり返る様にソファに腰掛けていた体を起こして慶太を睨みつけた。 「銀。この人何にも知らないんだから、怖い顔しない」 少年の細い腕が制すと、大男は顔を歪めたが大人しく座り直した。運ばれてきた煎茶をひと舐めすると「あちっ」と小さく零したあと、ふうふう息を吹きかけ始める。 「悪霊じゃないから盛り塩なんて意味ないですよ。寧ろ良くない。放っておいてください」 少年はそう言って、浅いカップにはいった紅茶を優雅に飲む。 線が細いな。 慶太はそっと視線を走らせた。 金髪では無いが髪も目の色も色素が薄く明るい色をしている。 小柄でまだ頬のラインも柔らかく幼さを残していた。 まだ青年に至らない少年の顔。 ふと隣の大男に視線を移してみる。 ふわふわとした三角の耳と背中でコロコロと優しい音を立てる銀の鈴、胸は厚く逞しい。
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