少年と猫

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ふと先程の言葉が頭をかすめた。 『次代は男』『守護は銀鈴』、確かそんな言葉がでてきていた。 「……さっきの話……もしかして君達?」 「話?」 先程誰もいないはずの商店街から耳に流れ込んできた噂話のようなものを伝えると、わかりやすく眼の前の二人の機嫌が悪くなった。 銀と呼ばれた大男の方はギリギリと歯ぎしりをし始める。 「クソが。くだらんことを。銀鈴でもジジイ共など一捻りじゃ」 「銀狼の呪い?……あそこは今はそれどころじゃないってのに。こっちにちょっかい出してる場合じゃないんだよ。世間知らずめ」 どうも二人には噂をした人物たちに心当たりがあるらしい。各々悪口雑言が止まらない。 「……サービス」 ふと空気が淀みはじめたテーブルに饅頭が2つ置かれた。 骨ばった手は慶太の前だけ小さなシュークリームを置く。 「君はコレ。饅頭は食べちゃだめ。こちらの食べ物は縁を作る」 『縁』? その言葉にはっとしたのは眼の前の二人も同様だったようだ。 「……他の妖の言葉が聞こえるなんて……。それなりに縁が生まれてるってことか」 「しかもあの弱っちいジジどもなると問題じゃな。ちっ。のんびりもしておれんわ。さっさと探すか」 「あの……縁って?それにお二人は?」 もう聞かずにはいられない。慶太は思い切って二人をぐっと見つめる。 少年が少し困った顔をしたが、諦めたように小さく息をつくとポツポツ話し始めた。 「僕と銀はこの辺りを縄張りとする、鈴の妖の……いわば……部下?下僕?……みたいなもんでして。縄張りを荒らす輩なんかを見回ってるんです」 ……妖。 やはりこの異空間は別世界なのか。 慶太の背中がヒヤリとする。 冗談だろうと笑い飛ばしたいが、今までの状況がそれを否定した。 「鈴様は依代を使って縄張りを守るんです。大抵人間の女を選ぶけど……次代の僕は男だもんで、風当たりは強いですよね」 と、苦々しげな表情を浮かべた。 「でっ、依代が軟弱ニンゲンじゃから、鈴様は合わせて守護の妖をお選びなさる。鈴音の守護は儂じゃ」 銀がそう言いながら一口で饅頭を頬張った。背中で銀鈴が咀嚼に合わせてコロコロとなる。 「この鈴が守護の証です。守護に選ばれた者は鈴を背負って生を受けるんですが……これもね、通常金色なんですけど……」 「ふん。色が何じゃ。儂の力は鈴華の守護と変わらぬわ」 「詩(うた)と張り合うなんて……」 「あんのクソ小鼠に儂が負けるなど!!」 「今日も負けてたじゃん」 またしても二人の小突きあいが始まってしまった。 慶太は仕方がなく眼の前のシュークリームに手を伸ばす。 久しぶりに食べたトロリととろけるクリームに思わずうっとりとしていると、隣からカサリと乾いた音が響いた。
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