少年と猫

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「塩気の強いものは旨いけど、程々にね。君の体にも良くない」 癖毛の青年が、こっそりと銀の横に置かれたビニール袋を取り戻してくれたらしい。 そっと机に置かれる。 「あの……聞いておいて何なんですけど、妖のお話とか俺なんかが聞いて良かったんでしょうか?」 コーヒーに両手を添えて俯いてしまう。 優しいこの青年もニンゲンではないのだ。そう思うと緊張してしまう。 「平気。縁が切れたら何も見えなくなるし、すぐに忘れちゃうよ。それを見越して話をしてると思う」 ボソボソと癖毛の店員は答えた。 あっという間に無くなった饅頭の代わりにザラザラと袋から雑に煎餅が追加された。 それを横目で見ていた銀が器用に怒鳴りながらガツガツ食べ始める。 話題はすっかり「昨日おやつに取っておいた団子が詩と鈴華に取られた」へ移っている。「んなの名前書いときなよ」と少年が呆れたように言うと、「書いても詩は喰ってしまう」と、もう既に喧嘩とも愚痴ともつかない内容だった。 これはいつ帰れるのか。 慶太が困ったように眉を下げたのを見て、癖毛の店員はシュークリームを手渡してきた。 先程は皿に出されて分からなかったが、見るとスーパーで見かける量産品のパッケージに包まれている。 ありがたく2個目を頂戴することにしようと、パリッと開けた所で青年がボソボソ話し始めた。 「妖がニンゲンに関わるなんてあんまりないけどね。鈴音達に見つかったらタダじゃすまないし。寧ろニンゲンはニンゲンの方を気をつけたほうがいいんじゃないかな」 パサリと置かれた新聞紙は今日の夕刊だった。 どうやら強盗事件が起きたらしい。 被害者は重症を負って意識不明だと書かれている。 ここ最近こうしたニュースが何度か流れてきていた。 先日街の掲示板にも「不審者に注意」と張り紙がされているのを見かけたばかりだった。 確かに余程ニンゲンの世界のほうが歪んでいるように思える。 ふと窓際に張り付いた着物の少女を思い出した。 あの子はなぜこちらの世界に迷い込んでしまったのだろうか。きっと彼らが住む妖とやらの世界が彼女の本当にいるべき場所のはずなのに。 放っておけば彼女は帰ることができるのだろうか。 泥まみれで胡瓜を貪っていた少女が何だか少し可哀想になってしまった。
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