☆ネジとカスタード

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☆ネジとカスタード

「どうしたんだ? せいちゃん。ぼうっとしてる」  坂木倫太郎の声に、村瀬清路は湯船の中で我に返った。「いえ、別に」と答えるものの、先ほどまで坂木と離れ離れになるシーンを妄想をしていたため、まだ現実に戻り切れていない。  向かい合わせで、同じく湯船に浸かった坂木が手を握ってくれて、ようやく魂が戻ってきたのだった。  ため息を噛み殺し、村瀬は片手で顔を覆う。もう片手は坂木に握られたまま。 「……なんでもないです。ちょっと、考えごとを」 「ふぅん? 何回も呼んでるのに反応がないから、ちょっと心配した」  お湯の温度、ちょうどいい? と坂木が尋ねてくる。村瀬はこくりとうなずいた。 「二人で入っているので、いつもよりあったかい気がします」 「そうか? よかった」  坂木はにこにこと笑っている。その「ゆるキャラ」全開の笑顔に村瀬は癒され、また、ムラムラと欲情する。だが、それではだらしないと自らを諌めた。  ちらり、と年上の恋人を一瞥し、村瀬は湯船から出ようとした。 「じゃあ、倫太郎さん。おれは、お先に――」 「なんでよりにもよって乳白色の入浴剤を入れちゃったんだろうって、思ってたんだよなぁ」  しごく残念そうに、坂木が言った。村瀬の手は握ったままだ。 「せいちゃんのエッチな体が見えないから、残念」 「……ベッドで見てるでしょう?」 「濡れた肌と髪、熱で上気した頬と潤んだ目を見るのが楽しみなわけで。あと、レアなシチュエーションにそそられる」 「スケベですね、相変わらず」  今度は露骨にため息を吐く村瀬。そう、おれはスケベなんだよ、と胸を張る坂木である。 「あ、せいちゃん。あれ、したいなあ。『人間椅子』」  突然のリクエストに、村瀬は少しだけ困った顔になる。しかし、従った。湯をざばざばと波立たせながら、狭い湯船の中で方向転換。  坂木の腿の上に、彼に背中を向ける形で腰を下ろす。 「よくできました。偉いぞせいちゃん」  ご満悦の坂木に対して、村瀬はすぐに気がついた。耳まで赤く、仏頂面だ。四年前にリフォームしたという、白い壁を睨みつける。 「……倫太郎さん。当たってるんですけど」 「え? そんなはずは」 「そんなはずは、って、じゃあ疲れマラですか? めちゃくちゃ当たってます」 「そう?」  坂木がなにやらごそごそと自分の脚の間に手をやっている。次の瞬間、村瀬はぴくんと跳ねた。「当たっている」どころではない。「あの場所」に、「ソレ」がぐりぐりと押しつけられている。動悸が激しくなって、村瀬は泣きそうになった。「ソレ」の肉々しい感触に脳みそが乗っ取られ、欲情が暴走しそうになる。 「そ、そこ、だめですよ……っ、は、入ったら、どうするんですか……っ」  村瀬が身をよじると、背後から「挿れないよ」と坂木の声。 「今日は見てるだけだもんな。約束したもんなー」 「じ、焦らしておれで遊んでるんでしょう? 本当にタチが悪い……」  尻の穴に当たる肉厚の亀頭に、村瀬は媚びて腰を擦りつけそうになるのを必死でこらえた。挿れられたらどうしよう、と思うと軽くパニックになると同時に、挿れてほしくてたまらなくなる。  そのときだ。坂木の手が、そっと村瀬のモノを握り込んだ。 「ヒぁ!?」  思わず裏返った声が出る。耳を噛まれた。低い声がする。 「……せいちゃん、バキバキ。先っぽ、すごく濡れてるし」 「や、や、です……っ」  力なく泣いて、村瀬は尻の間に当たる力の塊が、また強度を増すのを感じた。怖くなる。湯がばしゃりと跳ねた。湯船のふちを掴んで、訴える。 「り、りんたろうさ、だめ……っ、ここでは、だめです……っ、の、のぼせそう……」  興奮と湯あたりで頭がぐらぐらする。息も苦しく、気分も少し悪くなってきた。村瀬はずるずると湯船の中に沈みこむ。慌てた坂木が彼をお姫様だっこで抱え上げ、洗い場の冷たい床に座らせた。 「ごめんな、せいちゃん。もう、しないからな」  安心して、何度もうなずく村瀬。体が冷えた空気に触れて、少し楽になる。そのまま意識は遠ざかっていった。
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