蒼の軍

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蒼の軍

 蒼き軍旗が翻る下、騎乗したスウェルがいた。愛馬のたてがみをもてあそびながら、目を細めて前線を見つめている。彼方の味方は防御を固め、突撃と退却を繰り返す緋の軍をよく押しとどめている。  両軍の先鋒がぶつかってから三十分。敵味方ともに疲れが出始める頃。ここが最初の一手となる。 「スウェル様。敵先鋒は引く気配がありません。味方を徐々に引かせ、その隙に中軍の一部を敵の両脇に回し挟み込んではいかが?」 「無用。見よ、敵の二陣は今にも飛び出さんばかりの構え。味方を引かせれば好機と見て一気になだれ込んでくるぞ」  スウェルが側近の進言を却下する。その眼差しは変わらず前線に向けられていた。  攻めに主眼を置く敵は、こちらから動かずともじきに動く。その狙いを見抜き、先手を打って命令を下すためには、敵が動き出す兆しを見逃してはならない。  ――動いた。  敵の二陣の後方で、身なりの良い一騎が手ぶりを交えて命令している。その手がしきりに左へと振られ、敵兵の顔も左前方へと向き始めている。  ただそれだけのわずかな兆しで、スウェルの目は、頭脳はすべてを見抜いた。 「伝令!」  控えていた伝令が素早く駆け寄り膝を付く。 「中軍右翼に、本陣が合図すれば前進して先鋒右翼を固めるよう伝えよ。敵が動くぞ。ゆけ!」  口早に命じる間も、命じてからもなお、スウェルの目は前線から離れない。ただ敵の動き出す兆しを、合図を出すその瞬間を見極めるために。  敵の一騎が手を振りかざし、敵兵が武器を掲げて応え、一斉に動き出す。 「今だ」  スウェルが高々と手を上げる。同時に、合図のために掲げられた旗が大きく振られ、すぐさま中軍が動き出す。  結果――  迂回して先鋒の横っ腹を突こうとした敵は、素早く押し出た中軍によって見事に防がれた。敵の目論見は外れ、戦況は再び膠着状態となる。  側近たちがその采配を讃える中、スウェルの目はずっと戦況を見つめていた。
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