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二人の傑物
夜。
薄暗い洞窟の中。ランプの頼りない灯りだけがあたりを照らすその場所で、スウェルと男が机を挟んで座っている。
「相変わらずすべてお見通しだな。どう動いても向かう先には必ず備えがあるというのは恐ろしい話だ」
男が盤の上から駒をひとつ取り上げ、パチンと鳴らす。
「そちらは、此度は少し手を抜き過ぎでは?」
間を置かずスウェルが駒を取って盤の外に置き、そこへ別の駒を進める。
「ほう、そう映ったか。しかし、そっちとは違って手加減が難しいんだ」
男は盤上を見つめ、顎をさすりながら黙考する。
スウェルも黙って待つことしばし、ようやく男が次の手を打つ。
「存じていますが、貴方の力量であれば上手くやれるでしょう」
男の手を読んでいたスウェルがすぐに駒を動かした。その妙手に男が眉間にしわを寄せて唸る。
「そうだな、次は上手くやるさ。そっちもしっかり頼むぞ」
それきり二人の間に会話は消え、駒の鳴る音だけが洞窟に響く。
しばらくして、うんうんと唸っていた男が両手を上げ、投了した。
「ダメだな。やはり頭ではまるで勝てんわ」
凝り固まった肩をほぐすように、男がぐりぐりと首を回す。
「しかし確実に上達していますよ」
「へっ、そうかい。ならそのうち追いつくかね」
「それは難しいでしょうね」
表情を変えずに言いのけるスウェルに、男は思わず吹き出し豪快に笑った。
「さて、今日はこの辺にするか」
「そうですね」
二人が立ち上がり、スウェルがまず手を伸ばした。
「永く、つまらぬ戦いを」
その手を、男は硬く握り返す。
「いつか、意味ある戦いのその日まで」
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