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DNA鑑定書
ぷーーーーーーーーーーん。
ぴしゃ。
「あ、逃げられた! まぁ、刺されてないみたいだからいっか」
気温が上がって、人々が薄着になる夏。
蚊の活動も活発になる。
人々が「蚊」と思っているが、現在吸血蚊の90%はモスキートドローンと呼ばれる人工蚊であった。
外見は「蚊」。
特徴として、羽音も「蚊」。
吸血されても、痒くならないし、腫れない。
モスキートドローンが集めた微量の血液は、国立血液研究所に集められた。
先細る人口、落ちる国力の歯止めをかけようと人工知能が出した計画が、選民プロジェクトだった。
集められた血液を解析し、優秀な遺伝子を判別。
優秀な遺伝子からクローンを作製。
雌雄不要で、優秀な遺伝子を持つ「人」が出来上がった。
将来の国力を高める為、国力血液研究所の権威である博士は世界プロジェクトに心血を注いでいた。
皮肉な事に、優秀な遺伝子の人工人間が増えるにつれ、凶悪事件が増加した。
優秀だが、心の機微には疎い人物が増えた事に依るものだ、とプロジェクトの反対を唱える科学者まで出始めた。
国立血液研究所の権威と呼ばれる博士が、出勤前に自宅でテレビをつけると、凶悪事件を報道していた。
世間を震撼させた無差別爆撃事件の犯人は、人工人間だった。
あまりに残忍な凶悪事件であり、本人の反省も得られず、矯正不可と判断されたため、犯人には死刑判決が下された。
テレビを見ながら、博士はため息をついた。
そこへ飼い犬のジョンが、玄関から郵便物を咥えて来た。
「ありがとう、ジョン」
郵便物を受け取り、飼い犬の頭を撫でる。
いつものように、ペーパーナイフで郵便物を開封して、博士の動きが止まった。
宛名は国立血液研究所。
DNA型父子鑑定書が一枚入っていた。
「擬父は子どもの生物学的父親と判定できる」
「父権肯定確率 99.9999%」
擬父欄には自分の名が記名されている。
子どもの名前欄には、ニュースで流れている凶悪事件の犯人の名前が記されていた。
選民計画に依る優秀遺伝子クローン人間のDNA提供者が明かされる事はないが、クローン人間が凶悪事件を犯した際には、鑑定書が届けられる事が決まりとなっていた。
自分が知らない間に、自分のクローンが犯した罪の重さを、研究者は知った。
翌日から研究者は、一切の研究を辞めた。
その後、国立血液研究所を訪れる事はなく、博士を見た者もなかったと言う。
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