死神曰く、今日で俺は死ぬらしい

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 悲しいときも嬉しいときも、共有するように分け合ってきた。家族がいないときは、クロが必ず隣にいた。励まして喜んで。それを家族と言わずして、なんというのだ。 「クロ、大丈夫だからな。もう平気だ。今すぐ外に出るから」 「あはっ出られないよ」  死神が愉悦を含んだ歪んだ嗤いを響かせる。炎がごうと鳴いて、扉の前を塞ぐ死神の背後まで迫った。いつの間にか階段すら炎は飲み込んだらしい。  クロを抱き上げた雅人は、ひゅうひゅうと鳴る呼吸音にタイムリミットが近いことを悟った。体中が痛み始めて、よたつく。 「これが俺の、死?」 「そう。火事で死ぬ。ペットを助けるために、無謀にも火の海に飛び込んだ。絶対助けるからって。なんの根拠もないのにね、そのまま死ぬの」  あわれだね、ばかだね。あっけないね。  きゃは、きゃははははははははっ。  結末を確信して甘美なる死を 涎垂らして持ち望む死神に、雅人は俯いた。  ちらし寿司を作ると、応援してくれる両親。  軽口を叩きながら、日々を笑い合える親友。  気さくで、見守って手助けしてくれる教師。  悲しいときも楽しいときもそばにいた家族。  俺は――彼らを裏切るわけにはいかない。  何一つ、恩返しできてないのだから。 「降りられないのか」 「無理だよ。もう階段は使えない。挑戦してもいいけど」 「死ぬってか」 「うん。無謀な強行突破はここまで。無敵のヒーローごっこは終わり。次こそ炎に焼かれるか煙で意識を奪われるか」  ほらもう限界。退場は速やかにすべきだよ。
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