死神曰く、今日で俺は死ぬらしい

11/14
前へ
/14ページ
次へ
 死神が雅人の体を示した。焦げた服に火傷だらけの肌、煙で咳き込み、痛む肺。  雅人は確かにと頷いた。戻るのは無理かもしれない。  ならば。  「出口を、変える」  死神に背を向け、苦しげな家族を抱えながら近づいたのは。 「は、死ぬ気?」  死神が戸惑いに、雅人は窓を開けた。煙が出ていき、人々の悲鳴が下から聞こえる。二階の高さを確認する。 「――そうだ、死ぬ気なんだ」  雅人はあっけらかんと答えた。窓に背中を向けて腰掛ければ狼狽えた死神が見える。 「お前は言ったな、定められた方法で死ぬって。それは火事に飛び込んだ俺が煙で呼吸困難になり焼死する、なんだろ」 「それは」 「そうだ、決して落下死、飛び降り自殺なんかじゃない」  焼死。  それが運命。だが、雅人が選ぼうとしている道は予測とは別だ。 「もし予測と違う行動なら、どうなるんだ?」  挑発に、死神が瞳に剣呑な光を宿す。怒り、焦り、動揺、綯い交ぜになった感情が隠し事を浮き彫りにしていく。 「死ぬ。犬をかばいながら落ちたら、打ち所が悪いとか首の骨が折れたら終わり。死にたくないんでしょ、きみにはできないでしょ⁉」 「ああ、死にたくない」  大切な人たちを悲しませたくない。既に火事に飛び込み心配をかけている、これ以上は駄目だ。  だが。 「――でも、こいつが、クロがいないと意味がない」  大切な家族のクロが代わりに死ぬかもしれない。  クロも含めた、大切な人たち全員と生きたい。いなくては、意味がない。 「無駄話は終わり。――退場は速やかに、だろ?」 「まって……っ」 「それじゃ賭けだ。どっちが勝つかな」  定めとは違う方法で、それも自殺行為なら死なないという推測。曖昧すぎる賭けだが、雅人に時間の余裕はない。  体から力を抜けば、簡単に傾く。何もない後ろへ、悲鳴が聞こえる。死神の焦った表情で手を伸ばす滑稽な姿を、最後まで目に焼き付けた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加