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(ちょっとドラマ長くないかな)
推しと話せるのは幸せだけど、そろそろドラマが終わってもいい頃合いだ。なのに、まだ銃声が続いている。
こんなに撃ってたら、どっちも全滅しちゃいそうなんだけど。
もう十七時過ぎてるよね。最終回スペシャルだったとか、そんな感じ?
そう思ってテレビのほうを見たら、つられて顔を動かした推しが、あることに気付いた。
「お前、なにゲーム始めてんだよ!
……あ、ごめんね?」
突然声を荒げたからびっくりしたけど、すぐに優しい口調で謝られた。……待ってギャップで死んだからもう一回お願いします。
弟さんは隠し事が見つかった子供みたいに肩をすくめる。
よく見たら、テレビ台の下に据え置きのゲーム機がいくつか置いてあった。
「なんか銃見てたらやりたくなってさ」
「お前なあ。お前が車運転しなきゃ、小笠原さん帰れないだろうが」
「ああそっか! すんませんっ」
「いえいえお気になさらず! 予定とか全然ないんで! どうぞどうぞ!」
……初めて推しが名字呼んでくれたー!
その興奮もあって、勢いよく首を振ってしまう。ナイス、弟さん。ありがとう、弟さん。
それに、翔哉君は橋本先輩の弟さんだから、翔哉君にも気を遣わせたくない。うう、忘れてたけど私全員に気を配らなきゃいけないんだ……! なんて窮屈な!
「せっかくだから見てきません? タッシーもアドバイスちょうだい」
「しょうがないな……」
前言撤回、推しがゲームやってるとこ見られるなんて最高すぎる。
田代さんが翔哉君のとなりに座ったから、私は横にある一人掛けのソファに座った。なんて特等席。
「興味あります? こういうの」
「やったことはないですけど、動画とかちょっと。弟さんがやってるのも、ちょっとだけ見ました」
「マジで!? ありがとうございます、ついでにアカウントのフォローもお願ぁい!?」
「撃たれてる撃たれてる」
「わわ、大丈夫ですかこれって」
目を離した瞬間に撃たれて弟さんが悲鳴を上げる。
ネット対戦だから、相手はコンピューターじゃなくて生身の人間だ。つまり、隙を見せれば――
「マジで! マジでヤバい狙われてる!
あの、ほんと俺頑張るんでアカウントフォローお願いします! 頑張るんで! こっからどうにかしますんで、やめてぇぇー!」
焦りのあまり身体ごと動いてる。
「おい馬鹿、乱射すんな! そういう武器じゃねえだろ!」
「だって! だっていいとこ見せたいから!」
「ああああの、大丈夫です! 私、もうアカウント登録してます! してますから!」
「ほんと!? やった――てああああああああっ!」
「やったなお前」
歓喜の声が絶望の咆哮に変わる。これがゲーム。これが戦場。
項垂れながらリベンジを乞う翔哉君に、私は頷くしかなかった。
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