オシャレにこだわる理由

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「えっ、動画配信してるんですか!?」  驚いて聞き返すと、橋本先輩はフォークに刺したトマトを口に運びながら頷いた。 「学生んときからやってたの。メイクとかネイルとか。  これも、この前配信したとこ」  そう言って見せられたのは、薄くグラデーションされたきれいな爪。青地に銀色の線が伸びていて、キラキラとラメが輝いている。 「すごい! すごくきれいです!」 「ありがと。七夕が近いから、天の川イメージしてみた。今日はパンプスだけど、足もやってる」 「これ、その動画ね」  結城先輩が見せてくれる画面を覗くと、ネイルを塗っているところが再生された。爪を上から映していて、橋本先輩の声も聞こえてくる。 「これ、全部自分で考えて塗ってるんですか?」 「そ。ネイリストとかなろっかなーって思ってた時期あってさ。資格も取ったりしてた」 「そうそう。奈緒の部屋、ネイルに使うやつ全部揃っててね? たまに借りてるけど、やっぱプロのものは違うっていうか」 「プロ用じゃないけどね。でも安いのはすぐだめになるし、バイト代入るたびに買い足して」  なんてことないように言っているけど、独学でプロ顔負けのものが作れるなんて。  いつも凝ったデザインのネイルをしているから、てっきり専門店に通っているものだと思っていた。  これは真似してみる価値ありでは?  自分でやれば金額は抑えられるし、そのぶんほかのことにお金を回せる。今から練習すれば、サイン会に間に合うかもしれない。 「あの、お二人のアカウントを教えていただいても?」 「いいよ。小笠原ちゃんはなにかやってる?」 「いえ、全然! ちょっと写真とかあげたりしてる程度です……!」 「私のアカウントも教えとくねー。こっち本アカで、こっち趣味アカ」  快く教えてもらえたので、二人のアカウントをいそいそとフォローする。パッと見える写真だけでもセンスの塊だし、これから遡るのがとても楽しみだ。  待ちきれなくて、結城先輩のSNSを少しだけスクロールする。 「わあ、やっぱりおしゃれ……! このコスメってやっぱりデパコスですか?」  ずずいとスマホを押し出すと、結城先輩が上から覗き込んだ。 「あー、これは……どこだったかな。ちょっと待ってね」 「アルバム見れば? どこ行ったかわかりやすいでしょ」  これはリアルでの知り合いだからこそできる特権だ。  コメントで質問することもできなくはないけれど、繋がってない人にいきなりそんなことを尋ねる勇気はない。特定していると思われても困るし。 「あったあった。アウトレット行ったときかな、これ」 「アウトレットって化粧品あるんですか?」 「全然あるよー。服はサイズとかカラバリあんまなかったりするけど、コスメはそういうのないからいいよね」 「シーズン終わった限定ものとかストックしておけたりね。ネイルとかほんと助かる」 「なるほど……!」  聞けば聞くほどためになる。  もっともっと知りたいけれど、これ以上は食事の邪魔になるだろう。前のめりになるのをグッとこらえて、パスタ皿に視線をずらした。
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