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最悪な翌日
やってしまった……。
見慣れない部屋のなかで頭を抱える。
幸か不幸かもちろん幸で、思い出そうとすればだいたいの流れは思い出せた。
宅配のピザとか食べながら映画なんか観たりしてるうちにどんどん楽しくなって、泊まる流れになってしまったわけだ。
素面だったら絶対に断っただろうけれど、アルコールを何缶か開けた私は、その流れに身を任せた。
わかるよ、推しが言ったんだもん断らないよね、断って!
じわじわと得ていく実感に頭を垂れる。
楽しかったことは覚えているけれど、記憶はそこまで詳細じゃない。その証拠に、観ていたはずの映画の内容すらおぼろげになっていた。
洋画で、アクションシーンがあったことは覚えている。つまりなにも覚えていないのと変わらない。
私、失礼なこと言ってないよね? 絡んだりしてないよね?
覚えていない記憶を思い出そうとするも、映画ですら忘れてるんだから自分の言ったことなんて無理だ。
なんなら推しの言ったことですら覚えていないという万死。
うん、とりあえず失態は犯していないと仮定しよう。うん、そうなると次に目を向けなくちゃいけないのが……うう、これからのこと考えたくない!
朝だ。紛れもなく朝だ。
カーテンの隙間からうっすらと日が差している。
ここは客間らしく、部屋のなかに家具はほとんどない。私以外当然だれもいない。それでも。
朝! 朝だよ! 若い女性がモデルの家に一晩泊まった! もうなにも言い逃れができない!
誓って手は出していない――もとい、なにもしていないけれど、一般女性のその主張を信じる人間は少ないだろう。家のなかでなにがあったかなんて、外からは見えないんだから。
唯一の救いは翔哉君の存在だけど、特別な関係性ではという疑いに対する対策にはなりえない。
なにより、独身モデルである推しの家に泊まった一般女性Aに成り下がった自分が許せない。
朝帰り……人気モデルの家から出てくる女性の姿……炎上……謹慎……うう、いやなイメージが次々と!
そもそも、先輩になんて言おう。
橋本先輩の弟さんとも同じ家で寝泊まりしたわけで、そっち方面でのバッシングも視野に入れなくちゃいけない。
人気配信者が恋人を連れて人気モデルの家に遊びに行ったと取られたら――そちらはそちらで大炎上だ。なにより、先輩に申し訳が立たない。
ああもう私の馬鹿! 歩いてでも帰ればよかった!
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