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そうだ、さっさと帰ろう。とにかく家を出よう。
むくりと体を起こしてベッドを降りる。
そういえば、寝間着借りた記憶はあるな。
寝泊まりする人が多いから、たくさんスウェット買ったとかなんとか。うん、見た目イモいし、いかにもなにもありませんでした感!
細かいことは帰ってから考えるとして、まずはこのマンションから離れなくては。
発想がすでにやらかした人間のそれになっているけれど、構ってられない。
もうこんなところにいられない! 帰らせてもらいます!
手早く寝間着を畳んで部屋を出る――前に廊下を確認する。廊下で鉢合わせしたら気まずいし。
空き巣に入ったみたいな体勢になるから、これはこれで見られたらマズいけど。
時計見る余裕なかったけど、まだ朝早いよね? ちょっと薄暗いし。
さすがに廊下まではエアコンは効いてなくて、じわりと暑い。
ソロソロと歩いて、リビングへのドアを開く。うん、ここは昨日いたとこ。
見慣れた場所に出てホッとした私は無造作にドアを閉める。それに合わせてガチャリとドアが音を立てる。
「ん……」
「ヒッ」
聞こえた声に小さく悲鳴を上げる。
そうだそうだそうだ。翔哉君ここで寝てたんだっけ!
今さらながら昨日の流れを思い出して、ソファへと目を向ける。
私の立てた音が完全に引き金になって、翔哉君がもぞもぞと動き出している。カーテンは閉め切られていて薄暗く、衣擦れの音がやけに大きく響いた。
な、なななんか夜這いに来たみたいな空気なってない!? 朝だけど!
不純なワードを振り払って姿勢を正していると、ソファの向こうで翔哉君が起き上がった。音の発生源を探ろうと首を動かして、ドアから動けずにいる私に気がついた。
「おはよーござます……んー」
伸びをする翔哉君。
薄暗いのがなんだか怖くて、朝なのに部屋の電気をつけた。
翔哉君も私がさっきまで着ていたスウェットを着ていて、脱いできてよかったって思う。お揃いの寝間着は生々しい。
「ふあ-、ねむ」
「おはようございます……」
遅ればせながら挨拶を返すけれど、反応はない。
寝ぼけてポヤポヤしてるみたいで、口元が尖っている。
「ちょっと、顔洗ってくる……」
「はいどうぞ!」
音を立てんばかりにドアから離れる。
翔哉君は無頓着に部屋を出て行った。
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