最悪な翌日

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 至近距離で顔を覗き込まれる。  鼻と鼻がくっつきそうなくらいの距離に、うっかりのけぞってしまった。  まるで、やましいことがあるかのように。  ないです! やましい気持ちはあってもやましいことはないです! あれ、やましい気持ちがあるんだからやましいことあるって言うの? わかんなくなってきた。 「あの、違くて」  動揺が喉に引っかかって、か細い声しか出ない。  推しとの距離との近さと、推しに疑われていることのふたつで体が強張ってしまう。  そうなると田代さんの視線はますます険しくなるというこの悪循環! 演技力が欲しい! それか翔哉君早く戻ってきて!  助けを求めるように視線を逸らすけど、足音どころか物音すら聞こえない。  二度寝とかしてないよね!? 「なにかあった?」  もはやこれは尋問である。なにかあると確信した声の響きだ。  どうしよう。なにを疑われてるんだろう。   挙動不審すぎてなにか盗んだと思われてるのかな。それとも個人情報漏洩?  あー、ダメだ。推しに疑われてるこの状況がきつい。  泣きそうになるけど、ここで泣いたら罪を認めるようなものだ。罪なんてないのに。 「ごめんね、はっきりさせたくて。翔哉となにかあったりした?」  田代さんの言葉に無言のまま首を振る。  なんかやたらと翔哉君を気にしてるけど、翔哉君になにかしたと思われてる? え、翔哉君のストーカーだと思われた?  翔哉君とはけっこう一緒にいたし、盗撮するタイミングはたくさんあっただろうけど――誤解です!  未遂どころか考えてもないです! 冤罪! 冤罪です!  とはいえ、弁明しようにも証明方法がない。  このまま翔哉君のストーカーと認定されて、そのお話が翔哉君のお姉さんの橋本先輩に知られてしまったら――もう生きてはいけない。ふたつの意味で。  窮地に追い込まれてなにも言えずにいると、田代さんが不意に立ち上がった。 「あ、あの」  疑い晴れた? それとも保留? どっち?  狼狽える私に、田代さんは優しい笑みを浮かべる。 「ちょっとショウに確認してくる」  それはつまり私の終わりということですね!?
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