最悪な翌日

7/11

8人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
「ごめんなさい、ファンです! ずっと隠してました!」  もはやここまできたらだんまりも言い逃れも不可能だ。  腹をくくって叫ぶ私に、田代さんは目をすがめる。  ひいい、これが推しが犯罪者を見るときの目かぁ……。知りたくなかった……。 「その、本当は隠し通すつもりだったんですけど」 「へえ。そんなに」 「いや、まだまだというか、歴は浅いです……」 「どれくらい?」  田代さんがソファに座り直したので、私は思考に専念するためにも自分の指に目を向けた。 何月からだっけ。田代さんが載ってたラビアンが三月号だったから……それより前か。 「二月からですかね。五ヶ月くらい?」 「へえ」 「雑誌でお姿を拝見しまして。一目惚れと言いますか……」 「雑誌ねえ。ちなみにどんな雑誌?」 「えっと、ラビアン三月号です」 「……ん?」  ここで田代さんが聴きの姿勢を崩す。 「ラビアンって、ファッション雑誌だよね?」 「はい」 「……出てた?」 「出てましたよ!」  自分のことでしょうにという言葉は飲み込んだ。  モデルとしていろいろな写真を撮られていれば、そのうちのひとつかふたつは忘れてしまってもしかたないだろう。 「それで、そこから?」 「はい。ネットで検索してSNSフォローしたり、サイン会申し込んだり……。あ、フォローしたタイミングで告知があったので、そのままサイン会申し込んじゃったんですけど」 「熱烈だね」  うわわ、なんで私、本人にファン歴語ってんだろう。  ポッポと顔どころか体まで熱くなっていく。 「それで、初めて会ったのはいつ?」  え? ……あ、そっか。イベントかなんかに来たことあるかってことね。 「恥ずかしながら、昨日が初めてです」 「そうなの?」 「恐れ多くて。サイン会は勢いで申し込めたんですけど」 「そっか。ああ、会社にお姉さんがいるの知らなかったんだ。運がよかったね」  なんでここで橋本先輩?  ああ、橋本先輩から田代さんの友達の翔哉君経由して、お近づきにってことか。  さすがにそんな計算して近づくのは無理かなあ。  弟さんのアカウント教えてもらっても、田代さんの友達だって気付けなかったし。そう考えると、田代さんの言うとおり、とても運がいい。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加