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「せっかくだから小笠原ちゃんも行かない?」
「へっ?」
結城先輩の言葉に眼を瞬く。まさか、誘ってもらえるなんて思ってなかったから、じわじわとうれしさが込み上げてきた。
「今週の土曜日、予定ある? 暇だったら」
「全然暇です! けど、いいんですか?」
前のめりになると、橋本先輩が頷いた。
「他部署の子と遊ぶ機会ってあまりないしね。会社の飲み会だとあんま話せないし」
「そうそう。興味あるなら」
憧れの先輩達とお出かけ!? 突然のイベントに思考がグルグルと回る。
二人が二人で遊んでいる姿は想像できるのに、そこに自分を混ぜると想像がうまく動かない。どうしたって先輩二人を眺める構図になって、これは……そう、あれだ!
「アシスタントやればいいですか!?」
発想をそのまま声に出すと、二人はそろって噴き出した。
「あっはは、なんでそうなんの」
「いいよいいよ、ただの女子会だから。ちょっとSNSにあげたりするけど」
「じゃあそのお手伝いとか! 」
「ランチの写真撮ったりするだけだよ」
「なら荷物持ち! 荷物持ちくらいなら!」
「意気込みすごっ……!」
ツボに入ったのか橋本先輩はまだ肩を揺らしている。
だって絶対私だけ場違いだ。連れてってもらえるのに、なにも役に立てないのは申し訳ない。
こうなるんなら、車の免許を前もって取っていれば……! そしたら二人の送迎できて、株も上がって、できる後輩になれたのに!
でも持ってないから、私はわびしくアイスコーヒーを啜る。ストローが氷に当たって、ズズッと情けない音が出た。
待ち合わせの場所と時間はまたあとでということで、昼休みは終わった。
幻みたいな時間に夢みたいな約束だったけど、通話アプリに二人の名前が増えているから幻想じゃない。うれしすぎて思わずスクショした。
ーー
この日の夜、橋本先輩から連絡があった。
なんでも、先輩の弟さんが車を出してくれることになったそうだ。
『うちのもあそこのブランド気になってたらしくて』
『弟さんもおしゃれなんですね』
『どうだろ笑』
『まあ配信のネタにはなるだろうしね』
ベッドに寝っ転がってた私は、そこで身体を起こした。
『弟さんもやってるんですか?』
『そ』
『あっちは職業』
『私より登録者多いの』
最後のメッセージには怒った顔の絵文字があった。負けず嫌いなところが見えてちょっとかわいい。
でも、職業にできてるなんてすごいな。完璧姉弟なんだな。
アカウントを教えてもらって調べると、ーSHOUーというアカウントが出てきた。
雑談とか企画とかゲームとかの動画が並んでいるけれど、私が見るようなやつはあまりない。
試しに再生数が高いのをひとつ見てみると、お面を被った人たちが虫取りをして戦わせていた。徹夜テンションで盛り上がってて、つい笑ってしまう。
ちょっと橋本先輩とはジャンル違うけど、けっこう面白いかも。はー、この人にも会えるんだー。
まったく知らない人だからあまり感慨はないけれど、せっかくならもう少し見ておいたほうがいいかも。そう思って動画をポチポチしていたら、あっというまに夜中になってしまった。
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