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車で一時間かけてやってきました、高級モール。
駐車場が地下だから、外観をじっくり眺められなかったのはちょっと残念。
「ついたー。まずどうしよっか」
「下から順に見てけばいいんじゃない。お昼まで時間あるし」
「小笠原ちゃん、どう? 喉渇いてる?」
「大丈夫です」
ここは先輩のお姉様二人に従おう。高級ブランドでの買い物の作法なんて、知っているわけがない。
先輩二人はそれぞれデートの約束があるので、今日は午後で解散だ。私だけ橋本先輩の弟さんに送ってもらうことになっている。
今日初対面の男の人だけど、気さくでちょっとかわいいから緊張しなくてすんだ。
でも、やっぱり二人ともおしゃれだなあ。
色味少ないのに地味じゃなくて、素材の良さが引き立っている。美容院の予約があるらしいからヘアスタイルはシンプルだけど、それも服のナチュラルなテイストに合ってて完璧っていうか。
私なんて、手持ちの服で一番値段が高いのを合わせてきたのに、全然高見えしていない。どうあっても二人に並び立てないのはわかっているから、悪目立ちしない服装にはしてきたけれど。
なんか、付き人みたいな感じ。
「じゃ、行こっか。見たいのあったら遠慮なく言ってね。せっかく来たんだし、いっぱい回ろ」
「はい!」
「ちょっと待ったー!」
後ろからの大声にびっくりして飛び上がる。
振り返ると、最後に運転席から降りた弟さんが、じっとりした眼で私たちを睨んでいた。
「なに。もういいよ、行って」
「そんな犬みたいな」
「俺を一人にすんなよ! こんな恰好の男が一人でこんなとこいたら目立つだろ!」
そう言ってバッと腕を広げる弟さん。
ロゴの入った黒い七分丈シャツに、夏らしく裾の広がったカーキ色のズボン。ラフな仕上がりで安心感があるけれど、どちらかというと屋外向けの恰好である。
「いいじゃない、目立てば。配信者は目立ってなんぼでしょ」
「そうだけど! そうだけどこれは違うだろ! こんなんダサすぎて数字落ちるって!」
「自分で着てきてあんた」
「こんなガチなところだと思わなかったの! もっとこう、ファミリー向けのショッピングモールだと!」
「私の恰好見て察しなよ」
「だから最後、口数少なかったんだ」
そういえば、都心に入ってから急に口数が少なくなっていたような。ずっと格好気にしてたのか。かわいい。
「一人で浮くなら私たちといても浮くって。道連れにしないでよ」
「姉ちゃんたちと一緒ならまだ言い訳できるんだよ。
一人じゃ、え? その格好でここまで来たんですか? お店間違えてませんか? って視線がヤバい。絶対」
「でっしょうね」
「気持ちちょっとわかります」
今回は入念に下調べして臨んだけれど、友達に誘われて来た場所がここだったら帰りたくなる。ううん、一人で帰る。
「だったら車で待ってなさいよ。友達来るんでしょ?」
「まだ来ないんだよー。こんなとこで一人で待ってんの寂しいよー」
「ガキか」
「姉ちゃーん」
「外でその呼び方やめて。まったく……」
「連れてってあげなよ。ここまで送ってくれたんだから」
結城先輩が苦笑する。
「お姉様……!」
「あ、それはやめてね」
「はい」
なんか、友達と遊びに行くお姉ちゃんについてきちゃった、ちっちゃな男の子みたい。
一応、このあと遊ぶ予定の友達に早く来てもらえるよう連絡を入れて、弟さんは私たちと駐車場を抜け出した。
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