8人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
基本、デパートや商業施設の一階は高級ブランド店が多い。
だれもが名前を知っているバッグとかコスメとか。だから、ラフな恰好の弟さんは、これでもかというほどに浮いていた。
「俺ヤバくない? 一流企業のお姉さんに養ってもらってるヒモ大学生みがない?」
そうはいうものの、人数が多いからか背筋は伸びている。
顔がいいので、よけいその例えに説得力があった。
「そう思うなら、そのへんでジャケットでも買えば?
言っとくけど、ヤバいのはあんたがそんな恰好で来たからだからね」
「このかっこでジャケット買いに行けって? 服買う服がないやつになるよ」
「でも、その恰好でずっといるの? 知り合いの人ってそういうの気にしない感じ?」
「……あ」
弟さんが立ち止まり、顔に手を当てる。その表情は悲痛だった。
「忘れてた。たぶん、帰られますね……」
「厳しいですね」
「本人がモデルやってるんで……説教不可避かも」
「終わったな」
「モデルさんの知り合いなんてすごいですね」
いろいろな人とコラボしていたし、交友関係は広そうだ。
もしかしたら、知っている芸能人なんかもいたりするのかもしれない。
「どうする? 駐車場で半日過ごす?」
「その選択肢はないよ。んー、やっぱ買うしかないかー」
ヌググと唸る弟さん。ここで買うとなると、それなりのお値段になってしまうから気持ちはわかる。
「桜さんと小笠原さんには悪いんですけど、俺の買い物付き合ってもらえません?
一人で入れる店じゃないんで」
「いいよ。せっかくだから選んであげよっか」
「いいの?」
「待ってるだけなのも暇だし。とびっきり高いの選んであげるねっ」
茶目っ気たっぷりのウインクとともに、怖ろしいことをおっしゃる結城先輩。便乗するように橋本先輩が手を叩いた。
「そうね、あんたも一着くらいはいいジャケット持っとくべきでしょ。さーて、一番高いお店はどこかな-?」
「ちょ、姉ちゃん!? 俺、シャツ買えればいいんだけど!?」
「えー、こんなブランドショップ立ち並ぶところでそんなこと言うのー?
駐車代浮かせるために一肌脱ぎなさい」
「それが目的か! 待って待って、五万越える買い物は無理だって!」
「あ、あそこよくない? 見るからによさそう」
「値段がね!?」
うーん、先輩たち容赦がない。
ずるずる引きずられる弟さんに同情しつつも、私は無言で後ろを追った。
最初のコメントを投稿しよう!