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いやいやいや、本当にわけがわからない。
先輩の弟さんのお知り合いが私の推し? なんで? 地球は丸いし世界は繋がっているし日本は陸続きだけど。だからってこんな繋がり方ある?
本格的に女子会が始まっても、私の頭はまだ混乱の真っ只中だった。
だって、この女子会だって、もともとは推しの田代さんに会うための自分磨きがきっかけだったのに。磨く前に会っちゃった。
ううん、まだ間に合うかも。まだギリギリ出会ってないかも。
私と結城先輩は自己紹介してなかったし、視界に入ったのも数秒だったはずだ。私と結城先輩、記憶に残るのは当然結城先輩。
うん、推しに意識されてなければセーフ。友達の姉の同行者なんて、次に会ったときには忘れているに違いない。
つまり、私にとっては二度目でも、推しにとってはサイン会が初対面! よし、これでいこう!
そうと決まれば大幅なイメージチェンジが必要で、つまり、自分磨きはまだ継続だ。
先輩たちとお店を周りながら、自分に合う物を物色していく。バッグやアクセサリーなんかは桁が違って手が出ないけれど、コスメならまだ手が届きそうだ。
「本当は下地にお金かけたほうがいいんだけど、一式揃えるの厳しいならリップとかいいんじゃない? 唇違うと特別感があるし」
先輩はそう言って店員さん――BAさんというらしい――に声をかけてくれた。鏡に唇を引き結んだ私が映る。
「小笠原ちゃん、それじゃ塗れないよ」
「はああ、はい!」
「失礼しますね」
プロの人に見繕ってもらうのは初めてで、緊張する。先輩たちがいなかったら、絶対に試せなかった。BAさんは何種類も持ってきてくれて、ひとつひとつ、丁寧に唇に乗せてくれる。
「あ、これ好きです」
「よかったです。明るめなお色が似合いますね」
上品なBAさんに微笑まれると、営業だとわかっていても照れてしまう。そんな顔がちょっとかわいく見えるのは、やっぱり唇のおかげかな。
「ありがとうございました」
奮発して買った小さな口紅を、小さな紙袋に入れてもらってバッグと持つ。それだけで、ちょっと美人度が上がった気がした。
コスメを買ったあとは、イタリアンのお店でランチを食べた。
先輩たちがSNSにあげる写真を撮るっていうから身を引こうとしたら、笑いながらまんなかに入れられてしまった。二人とも顔出しはしていないから、SNS用の写真は料理と手だけ。でもやっぱりちょっと恥ずかしい。
本屋さんを眺めたり、生クリーム専門店でクレープを食べたり、雑貨屋さんで理想のおうちをわいわい話したりしているうちに、時間はあっという間に過ぎていった。
推しのことはまだちょっと頭に残っていたけれど、次に会うのはサイン会だから問題は――
「――田代さんの家、今から連れてってもらえるって」
情緒はまたもや破壊された。
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