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聖騎士の闇使い
────激しい剣戟の音。
騎士達の怒号と魔物の咆哮とが入り乱れる戦場を、俺は風の如く駆け抜ける。
「絶対に魔物を都市へと入れるな!」
「邪神の封印を解かせるわけにはいかない……!」
「騎士の誇りを示せ!」
戦場でそれぞれの団の団長が団員を鼓舞する声が聞こえた。
ここは1000年前に邪神を封じ、その封印を守るために作られた聖堂都市の壁外。
その封印を破るために日夜襲いくる魔物の軍勢。
それらを退けるために都市の建設と共に結成された聖騎士団。
俺──リヒトは騎士団の総団長だったヴィルヘルム様に憧れてこの聖騎士団に入団した。
「喰らえ!」
「トドメです!」
「捉えた」
「逃がさん……!」
騎士達は魔物目掛けて各々の属性を宿した得物を振るう。
人は一部の例外を除いて火、水、風、土の4属性のどれかに適正を持ち、属性適正の鑑定の儀を以てその力に目覚める。
例外は適正の属性を持たない無適正者。
そして上位属性の適正者だけだった。
────そう、俺が現れるまでは。
その時、光の柱が戦場に立ち上った。
基本4属性とは異なる、選ばれし者だけが使える上位属性『光』の奔流。
その光の力の前には強大な力を有するレッド・ドラゴンも一撃で倒れる。
「凄い! あのレッド・ドラゴンを一撃で!」
「さすがは総団長様!」
「さすがは選ばれし光属性の使い手!」
「聖堂都市を守護する騎士団最強の盾!」
他の騎士では10人がかりでも倒せるかどうかという巨大なドラゴンを一撃で屠って。
騎士達の賛辞を一身に浴びるのは、騎士団の今の総団長を務めるリーンハルト様。
俺が憧れたヴィルヘルム様と同じ光の属性を操る騎士団のエースだ。
だがレッド・ドラゴンは1体だけではない。
俺が向かう先には防戦一方の騎士達の姿と巨大な影。
彼等が対峙しているのもまたレッド・ドラゴンだった。
その鋭い鉤爪と強靭な尾、灼熱のブレスは脅威だ。
それらをなんとか掻い潜って騎士達が攻撃しているが、その血のように赤い鱗には傷1つ付けられていない。
俺は十字を描く巨大な剣──クレイモアを構えながらレッド・ドラゴンに向かって駆けていく。
「おっと」
混戦状態の戦場では時折味方の剣も襲ってくる。
俺は背後から振るわれた剣を易々と回避してそのままレッド・ドラゴンに向かった。
わりとよくある事。
だがそれにしても────
「いつもより剣を向けられ過ぎじゃないか?」
思わず呟いてしまう。
だって今のですでに13回目。
ちょっといくらなんでも多すぎる。
だが今はヴィルヘルム様が退団して初の大規模な襲撃による混戦。
それも仕方ないことか。
何より、剣を向けられる1番の理由が俺にあるのだ。
俺は隊列を組む騎士達を飛び越え、レッド・ドラゴンの前へと躍り出る。
俺の姿に背後の騎士達が一瞬息を飲んだのが伝わった。
無理もない。
深い闇をたなびかせて戦場を疾駆する俺の姿は、お世辞にも聖騎士の末席に名を連ねる者の姿ではない。
「チッ、リヒトか」
「驚かせるな、魔物かと思ったぞ」
背後からそんな声が聞こえた。
俺は闇によって黒く染まったクレイモアを振りかぶった。
俺に与えられた属性、それは『闇』。
無適正者、上位属性適正者に次ぐ第3にして初の例外。
人間が操る事はできないと言われた6番目の属性を操る者。
その属性の性質のせいで俺は度々、戦場で魔物と見間違えられる。
だがそれにももう慣れた。
レッド・ドラゴンは鋭い瞳で俺を見下ろした。
その鉤爪を俺へと振るう。
鋭い風切りの音と共に迫る凶爪。
だが俺はクレイモアを横に一閃。
黒い剣閃が尾を引き、レッド・ドラゴンの爪ごとその胸を真一文字に斬り裂いた。
続けざまに剣を縦に振り上げる。
「『黒き十字を抱きて眠れ』……!」
描かれた暗黒の十字。
十字を刻まれたレッド・ドラゴンの身体が頭から尾にかけて真っ二つに分かれた。
その身体が崩れ落ちる。
これが俺の対魔物の切り札。
最初の一閃で魔物に宿る闇を俺の力で奪い取り、その防御を低下。
そして奪った闇を込めた一撃で魔物を討つ俺の剣技。
憧れだったヴィルヘルム様の奥義『御手が刻みし勝利の聖印』を模した俺の必殺技だ。
「すげぇ、こっちも一撃だ」
「さすがは光と対をなす呪われた属性」
「いつ見てもおぞましい」
背後の騎士達が言った。
そこに感謝や賛辞の言葉はない。
同じようにレッド・ドラゴンを倒したのに、その対応はリーンハルト様とは雲泥の差だ。
魔物でも見るような目で見られる。
魔物の軍勢は筆頭だったレッド・ドラゴン2体を討たれた事で勢いを失い、ついには撤退した。
激しい戦いだったが俺達騎士団からは死傷者を出すこともなく完全勝利となる。
だが勝利の余韻に浸る暇もなく、俺は総団長リーンハルト様の呼び出しを受けた。
一体何の用だろうか。
リーンハルト様は名家の生まれで選ばれた光の属性適正者だ。
貴族の出でもなく、ましてや闇の属性を持つ俺をあまり快く思っていないと聞いていたけれど。
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