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「大魔王ドグザムを倒すためにもっともっと強くならねばならない。俺たちの冒険は、これからもまだまだ続く」
勇者ショーン、戦士トラット、魔法使いアニムのパーティーは、サルーン岬で集合写真を撮った。ショーンはジャンプして両手を挙げ、トラットは腕を組みカメラを睨み付け、アニムは岩に寝転がりカメラに向かってVサインをしている。
最後の1コマの台詞を皆で声を張り上げて物語を締めくくる。
しかしその顔は心底の笑顔ではなく作り笑いを浮かべていた。
「この漫画、これをもって打ち切りなんだから、ラストを笑顔で締めくくるのはしんどいよ。僕たちこれからどうすればいいのさ?」
魔法使いアニムは不安げにいう。
「どうするって、たとえ漫画は終わっても俺たちの冒険はこれからも続く。だから大魔王を倒すためにレベルアップするに決まってるだろ」
無骨な表情の戦士トラットは真剣だ。
「でもさぁ、漫画は終わったんだよ。レベルアップしても読者がいなきゃ意味がないよ」
主人公の勇者ショーンが呑気にあくび混じりでいった。
「お前それでも勇者か?俺たちは読者に選ばれたキャラクターだ。その責任があるんだから冒険を進めていくべきだろ」
トラットは右手に持っている剣を振り翳していった。
「せめて単行本を出せるまでは冒険したかったよね」
ショーンの本音が溢れた。うっすらと後悔の念を抱いているような表情をしている。
打ち切り。3人の間に重苦しい空気が流れた。
そんな空気を跳ね除けようと魔法使いアニムは両手を天に翳して静止したのち、その両手を前に突き出し魔法を唱えるかのようにいった。
「3話ウチキリィ!」
3人の間にはさらに重苦しい空気が流れた。
「なんか悔しいよね」
アニムは空気を察して、今の行為を無かったことにするかのように申し訳なさそうにいった。
そんなアニムの姿を見たショーンは自虐的に笑う。
「全部俺のせいだよね。俺があんなことしなければ」
「誰のせいとか無い。そんなことより次の目的地カサン島に行く準備をしよう。あそこの魔物はもう少しレベルを上げないと苦戦する」
トラットは後悔してる暇など無いとでも言いたげだ。
「ちょっと待って。心の準備ができてないよ」
「ショーン、今さら心の準備とはどういうことだ?物語が始まった時点で腹は決まっているはずだろう。それとも魔物にビビっているのか?正直なところ、打ち切りが早すぎてお前らの性格がまだよくわからないところがある」
トラットが急いているのを落ち着かせるようにショーンは解いた。
「俺たちはこのままでいいのかな?トラットは連載中に戦士としての見せ場があったけど何も成し遂げていない俺やアニムはこの冒険、向いているのかなって」
「この冒険を辞めたいのか?」
「アニムは魔法使いなのに、魔法を覚えないうちに打ち切りだよ。魔法使いが魔法を覚えて魔法を初出しするところって見せ場でしょ?それを読者に見せられないまま3話で打ち切りは可哀想すぎるよ」
「ショーン、僕のことはいいよ。それより君は、この物語の打ち切りが噂され始めたときから、いや、物語が始まった当初から主人公として勇者として一番プレッシャーを感じながら戦ってきた。夜な夜な宿場で泣いていたことも僕は知っている」
目に涙を浮かべてアニムは嗚咽していた。
3人の間にしばしの沈黙が流れた。
沈黙の間に、打ち切りを言い渡されたときの苦々しさを思いだしたトラットも悔し涙が溢れてきた。
「俺だって知ってるさ。ショーンは主人公というプレッシャーに押し潰されそうになって、1話後に降板を申出ようとしていたことも」
「でも俺はプレッシャーに負けて酒場で泥酔して全裸になってしまった。それが打ち切りを早めてしまった。本当に申し訳ない」
「謝るな。勇者のお前を守れなかった俺たちの責任でもある。だからこそ俺たちの使命である大魔王を倒すことで」
「トラット、聞いてくれ」トラットの言葉を遮ってショーンは叫んだ。
「俺たちが倒しに行くべきは大魔王なんかじゃない」
「どういうことだ?」
「俺たちが倒すべきは、この物語を打ち切りにした出版社だ」
「出版社を?」
「『倒すべきは出版社』は語弊がある。俺たちは出版社にはお世話になっているからね」
「じゃあどうするの?」
「出版社に提案するんだ」
「何を?」
「冒険は続けるけど大魔王を倒しに行くのではなく、この世界の各地にある定食屋さんへ赴き俺たち3人がいろんなランチメニューを食べ歩くのでそれを漫画にしてほしいと」
「いいね。それなら魔法を覚えていない僕でも肩肘張らずに冒険できる。トラットはどう?」
「いいと思う。実は俺も持病の腰痛に悩まされていて大魔王を倒すという使命を全うできるか不安だったんだ。しかし大魔王は誰が倒すんだ?ショーン」
「この前買収した弱小モンスターから聞いた情報だと、大魔王は最近借金苦で大魔王業を辞めて就職するらしい。だから世の中は平和になると」
「魔物の世界も不況なのか。あとショーン、勇者のくせにモンスターを買収するな」
「まあまあ。そうと決まれば出版社へ移動だね」
「俺たちの冒険はまだまだ続く。皆これからもよろしく!」
全員の目は希望に満ち溢れていた。
かくして3人は出版社へ赴いたが、アイデアがありきたりすぎるという理由で却下され完全打ち切りとなった。
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