隠れ里

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 窓からぼんやり空を見上げていると遥か上空の飛行機が真っ赤な炎に包まれた。 「あ……」  だが炎はすぐに消え、飛行機は何事もなかったように飛んで行く。 「おやおや、空からかい」  いつの間にか背後に立っていた母がそう呟いた。 「今日、うちの番だよね?」  私は振り向いて首を傾げる。母は「そうだねぇ」と言いながら箪笥の引き出しを開け、小さな箱を取り出した。 「じゃあ〝回収〟してくるとするよ」  小箱を手に母は出掛けていく。その背中に祖母が「お役目ご苦労さん」と声をかけた。  この村ではあるものを〝回収〟している。それは法で裁かれることのなかった罪人たちの魂。不思議なことに罪を犯した人間はこの村に引き寄せられてくる。ある者は山歩きをしていて偶然に、ある者は呪いの村と噂を聞いて興味本位で自らこの村を訪ねてくる。今日みたいに上空を飛行機で通過している最中に魂が降ってくることさえある。そしてこの村で捕らえられた罪人の魂は、小さな箱に封じられ二度と再びそこから出ることは叶わない。 「私もいつかは回収の仕事するんだよね。何か緊張するな」 「ふぉふぉ、まだ中学生なんだから回収の仕事をするのはずいぶん先の話。今は勉強頑張っとき」  祖母の言葉に「はぁい」と頷く。この村に学校はなく、子供たちは離れた街の学校に通っている。私もそうだ。街ではただの山間にある寂れた村、ということになっている。でも本当は違う。ここは隠された村。こんな村が日本にはいくつかあるらしい。ここでの生活を窮屈に感じることもあるがそれほど嫌じゃない。なぜなら……。 「ほれ、捕まえたよ」  しばらくして戻った母の手の中で小さな箱がカタカタ揺れている。箱の中から男の声が聞こえた。 ――タスケテ、タスケテ!  苦し気な声は途切れることなく続いている。 「ふふ、いつ聞いても楽しいよねぇ、この声。ああ、この村に生まれてよかった」  私たちは男の絶叫を聞きながらケタケタ嗤った。 了
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