人事を尽くして

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人事を尽くして

 吉川(よしかわ)道行(みちゆき)は布団に(くる)まっていた。  家の者は全員寝静まっている夜中で、彼自身も眠るために横になっている。  だが、眠れない。目を(つむ)っても、頭の中が今日起きた事を思い出させている。  明日から陰陽寮(おんみょうりょう)で働けないと告げられて落ち込んでいると、清水(しみず)さんに(はら)い屋にならないかと誘われた。  俺が時間をくれるよう頼むと、清水さんは「ああ、いいよ」と応じてくれた。  実を言うと、すぐにでも「働かせてください」と言いたかった。でも、  なぜ俺は祓い屋になりたいのだ?  突如として形を成した疑問が、決断を躊躇(ちゅうちょ)させた。  陰陽寮では雨宮(あめみや)さんを手伝いながら、魔や怪異について教えてもらった。そのおかげで、故郷の災いに立ち向かう不安も軽くなった。  何より、魔を見逃せなくて仕事を続けられなかった俺にとっては、魔が見えることが役立つ陰陽寮勤めは天職のようだった。  でも、迷惑がかからない以外で、魔を祓う仕事に()きたい理由はあるのか?  今まで普通の仕事をやっていた。それでもいいじゃないか。  道行の身体は疲れ果てている。しかし、彼の思考は休めずにいた。
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