人事を尽くして

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 七年前――この世界の地を初めて踏んだ日、道行は十四歳だった。  街の通りの真ん中で前後左右と見回したが、今まで歩いていた山林はどこにも無い。  一人混乱していると、 「君、大丈夫かい」  顔を隠した巨漢に声をかけられた。  その男が、道行ら霊験者(れいげんしゃ)を自宅に住まわせてくれた久遠(くおん)である。  奇怪な風貌が怖く、道行は逃げるのも忘れて怯えた。だが、久遠の態度に敵意は感じなかった。  どちらにしても帰り道は消え去った。それならばと、久遠に付いていくことにした。  家では粥が振る舞われた。久しぶりの食事だった。  食事を終えると、久遠は霊験者としての役目を説明した。 「俺、頭ン上に黒い(けむ)がある人を何度も見た」 「それが君の霊験なのだろうね」 「災いって、何が起きるのや? 俺は、レエゲンで何したらええの?」 「私には分からないんだ。君が生きた世界の災いについて聞かされていないから」  道行はこの世界の服を着て生活し、傍目(はため)には久遠の一人息子のようになった。  だが、新しい生活に慣れても、自分が持つ霊験の使い方は分からなかった。  この地に来てから黒い煙も、それが頭上に浮かんでいる人間も見ていないのだ。
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