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目覚めた二十一の道行は、窓から差し込む朝の光を眺めていた。
身を起こして、家の者と朝食を済ませて、外出の支度を終えた。
「久遠先生、それでは出かけます」
「休まなくていいのかい?」
「体力は有り余っているので。行ってきます」
「行ってらっしゃい」と久遠に送られ、外に出た。すると、
「おおー、ワンコやんー」
一匹の黒い犬が近付いてきた。
「えー、どないしたん?」
道行はにっこりして、なでようと屈む。
「吉川さん」
道行は固まった。
考え過ぎだろうか。犬から雨宮さんの声がする。
「……いや、まさか。犬……ですよね?」
「わんわん。式神です」
間違いない。犬が喋っている。
「雨宮さん⁉ どうしたのですか?」
「吉川さんのお迎えに来ました」
犬の姿が一瞬で消えた。
道行が顔を上げた先に、女が立っている。
長い黒髪を首の辺りで一つに結び、淡い色の着物と青い袴に草履を合わせた、すらりとした娘である。
誰だと思いながら立ち上がると、切れ長の眼と幽かに笑みが灯る口元が目に入り、雨宮桜花だと分かった。
兄弟のふりをした時の変装のような、初対面の人物に会ったような感覚がした。
「なぜ、式を使って迎えに?」
「吉川さんの反応を見ようと。犬好きなのですね」
「動物は好きですよ……って、からかうためにわざわざ式神を?」
ははは、と笑って返事を濁した桜花に、道行はしかめっ面を向ける。
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