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ここで会話が途切れた。話題を出すべきか道行が悩んでいると、
「情けないですが、私は吉川さんに出会えて、やっと貴方の苦労の一端を理解しました」
桜花が口を開けてくれたが、これまた予想外の内容だ。
「私の苦労、ですか?」
「吉川さんは陰陽寮に来る前から、魔を退治していましたよね」
「ええ、霊験で、でしたが」
「守人や霊能者でもない限り、人は魔と関わらないで生活出来ます。だからこそ、見える人は奇妙に思われることが多いのです」
そうだろうな。俺も不気味だと、頭のおかしい奴だと言われたことがある。
「私は慣れてしまったので、吉川さんが私の仕事で驚く度に、ああ、これが普通だなと、改めて知れるのです」
「慣れているって、私には羨ましいです」
憧れで輝く道行の瞳が映した、桜花は変わらず微笑んでいる。
「雨宮さんは、陰陽寮の仕事で一番好きなことはありますか?」
「龍だの、言葉を話す獣だの、滅多に見られないであろうものが見えること、ですかね」
「確かに、珍しい経験ですよね」
「愉快なものばかりでは、ありませんがね」
「本当に。私も陰陽寮に勤めて、それを実感しました」
道行は守人への感謝、そして尊敬を込めて言った。
老人に憑いたものを祓ってからは、使命感が道行を突き動かすようになった。
少年の頃は闇、つまり魔を見ることはほとんど無く、あったとしても道端で気分が優れない人に憑いている位だった。
しかし、仕事中に使命感を発揮した青年の道行は、変人扱いをされた。
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