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「……先生、ごめんなさい。仕事をクビになりました」
久遠は仕事の書類をちゃぶ台の上に置き、横で正座をした道行に顔を向けた。
「謝らなくていい。焦らずに次の仕事を見つけなさい。しかし、道理で悪霊の気配が突然減ったのか」
久遠が穏やかに答えても、道行は変わらず沈んだ顔で視線を落としている。そして、
「憑き物を落とす仕事は無いのですか」
絞り出されるような声で久遠に問うた。
「先生みたいな仕事なら、俺でも迷惑にならないのではと……守人の皆様の仕事を怖がる人はいません」
久遠は身体も向かい合うようにして、「道行」と声をかける。
「君は人を困らせたくないからそう言うのだろうが、自分の好きなことが何か、考えてみたのかい?」
「考えましたよ! 自分のやりたいことがあるかもしれないと!」
この瞬間、人生で初めて久遠に歯向かうような声を出した。
「でも、好き嫌いなぞ俺には心底くだらないです。そんなことより自分が、霊験と生まれてしまった俺だから持てる意味を……魔物を祓うことは、己の生きる意味なのです!」
道行の激情を前に、久遠は二の句が次げぬかのように動かなくなった。
石のように座したままの久遠に気付いて、冷静になった道行は頭を下げる。
「すみません。先生らの苦労も知らずに、自分が迷惑にならない仕事がしたいだなんて、身勝手でした」
「……いや、謝るのは私の方だよ。人々の生活に魔を及ぼさないのが守人の務めなのに、君に辛い思いをさせてしまった」
久遠の声から、自責の念が感じ取れた。
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