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「もう目の前です」
桜花の声がして、道行は考え事を止めた。
図書館はすぐそこだ。
「中で式神は使えませんので、資料を見て勉強するだけになりますね」
桜花と共に図書館に入る。
この時には既に、昨夜から続いた道行の思考は結論に至っていた。
祓い屋になりたい理由なんて、ずっと前から明確だったのだ。
街の中に在る古寺の境内で、僧衣を纏う清水秋世が本堂に続く道を掃除していると、
「失礼します。清水さんの許で働かせてください」
顔を上げると、迷いの無い顔をした道行が立っていた。
夕日に照らされた下宿の二階で一人、洗濯物を畳んでいた桜花は何かに勘付き、右手を前に出す。
その手で、開いた窓から飛び込んだ何かを掴む。
掴んだのは、一枚の便箋。
教えたら早速実践した送り主を思い浮かべ、少し可笑しな心地になりながら、『雨宮さんへ』から始まる便箋の文字に目を通す。
『私は清水さんの許で働くことになりました。今日、貴方とお話したことで決心しました。ありがとうございます』
読み通した桜花は笑っていたが、ちょっと眉根を寄せていた。
「まあ、自分で決めたことに善悪は無いよな」
そう呟き、祝いの返事を書くための便箋を探し始めた。
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