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秋世の返答は、呪文や印を覚えられない道行にとっては羨ましいだけだった。
「守人がそうってだけで、今のお前は生臭坊主の助手なんだ。必要なものから、ゆっくり身に着けろ」
道行は浮かない顔のまま再びノートを開き、今度は魔への対処法の暗記を始めた。
集中するあまり、境内に入ってくる客人に気付いたのは秋世だけだった。
「久遠先生じゃあないですか」
着流しの大男。頭に真っ黒な頭巾を被っている。
その姿を目にして、道行の表情が曇った。
「道行」
「何でしょうか」
久遠に答える道行の声は、よそよそしい。
「今日はね、私に陰陽寮の仕事があるんだ。見に来るかい?」
道行には意外な誘いだった。
久遠が、自分の仕事に道行を同行させようとしたことなど一度も無い。
どういう風の吹き回しだ。
「行けませんよ。俺には清水さんの手伝いがありますから」
機嫌の悪さが零れ出した道行に「ところがどっこい」と秋世。
「お前は強制参加で先生の仕事を見る。上司命令だ」
「えぇ⁉」
まさかの秋世から行くように指示されて、道行の口から感情が吐き出された。
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